2017年が明け、本年も又際限のない収集の日々が始まった。元旦、目が覚めると、年末にnet auctionに応札していたPHILIPS製の受信機、H2L/7が期せずして当館に落ちていた。通常では落札が難しい応札額であったため、新年早々誠に幸いであった。 さて、入手受信機の程度は驚く程良好で、構成部品に欠品を無く、また完全に原状を保っていた。しかし、装備真空管はドイツ製で、高周波増幅部を構成する直熱式四極管B442の代用管としては、先端のモールド製陽極端子を金属キャップに変更し、丈を縮めたRES094が取り付けられていた。オリジナルのPHILIPS B442は金色のスプレーシールドを施した、誠に見栄えのする球であり、このため、本管は是が非でも入手しなければならないと考えている。PHILIPS BERKIN H2L/7 本受信機はオランダのPHILIPSが1930年代に開発、販売した艦船用の全波受信機で、運用周波数は15〜20,000KHz(10バンド)である。構成は再生機能付きのストレート方式(1-V-2)で、この時代に於ける艦船用受信機の標準型である。 1940年(昭和15年)5月、ドイツはオランダを占領すると直ちに世界的な電子機器メーカーであるPHILIPSを接収し、工場をベルリンに設置した。ベルリン工場では戦争遂行に必要な機材の多くが製造されたが、H2L/7もその一つで、本受信機は製造元をPHILIPS BERLINと表記されドイツ海軍に供給された。 H2L/7は素晴らしいターレット式同調コイルを装置しているため、欧州の収集家の間では人気の高い受信機である。このため、マニアの中には同調機構を見せるため、上蓋を透明のアクリルケースに置き換える者もいるほどで、以前より当館も是非一台入手をしたいと考えていた。H2L/7諸元用途: 艦艇用受信周波数: 15-21,000kHz(10バンド)受信構成: ストレート方式、高周波増幅1段(四極管B442)、再生・オートダイン検波(三極管B424)、低周波増幅1段(B424)、低周波増幅2段(五極管B443)電源: 直流150V、直流4V空中線装置: 艦艇装備固定式H2L/7装置概要 本受信機は強固なアルミダイキャスト製シャーシの上部にターレット式同調コイル及び構成真空管他を、裏面に同調用蓄電器及び同調機構を配置した構造で、上部には板金製の上蓋が装置され、容積は25.5x47x24cmで、重量は17kgである。 ターレット式同調コイルはシャーシ中央に設置され、各構成コイルのボビンはタイト製で、裏面(シャーシ内部)に配置された同調用可変蓄電器はダイキャスト製のケースに収容されている。 H2L/7は開発された時代を反映し、高周波増幅管には四極管B442が使用されているが、本管は横向きに装置され、中央に第一格子入力側と、陽極出力側の結合を避けるための遮蔽板が装置される構造である。また、本受信機の高周波同調回路には鉱石検波器が組み込まれており、電源が遮断された場合に於いても、変調信号を受信出来る構成となっている。 回路構成 H2L/7は高周波増幅一段、検波、低周波増幅2段構成のストレート方式で、受信周波数帯域15-21,000kHzを10バンドで受信機する。本機には外部設置の空中線同調器が整備されており、切替式構成回路は強電界阻止用のネオン管短絡回路、空中線短縮用切替式蓄電器及び、強電界信号抑圧用のトラップ同調回路である。 高周波増幅部は直熱式四極管B442により構成され、検波は直熱式三極管B424による再生機能付格子検波である。両回路を構成する同調コイル群はターレット構成で、選択された各コイルの間には遮蔽板が配置される構造である。各同調回路は容量の異なる2連式可変式蓄電器二組(4連式)により構成され、運用周波数帯により選択を行う。 同調機構は減速比1:25のギア構成で、円盤型の樹脂製ダイアル目盛板はギアを介した粗・精密表示の二重構造で、粗目盛板はアルファベットA〜Mの360°13分割方式である。精密目盛板も360°の13分割方式であるが、各分割部は100目盛表示構成であり、粗目盛板のアルファベット1文字幅は、精密目盛板の100分割目盛幅に相当する。本ダイアル構成から、受信周波数の読取りは、添付の置換表により行う。 検波回路は三極管B424により構成され、検波方式は格子検波回路に帰還回路を付加した再生(オートダイン)検波で、帰還調整は検波管の陽極電圧可変方式である。各バンドの帰還用コイルには、低周波数バンドより高周波数バンドに対応して200〜1200Ωの抵抗器が並列に装置され、全バンドに於いて均一した再生状態が誘起されるよう設計されている。 低周波増幅回路は三極管B424及び直熱式五極管B443により構成される二段増幅方式で、各段は低周波変成器結合方式である。出力は低周波増幅一段部及び二段部を受話器端子で選択する構成であり、出力インピーダンスンは大凡3KΩである。 なお、本受信機には交流式電源が整備されているが、供給は高圧用の直流150V及び低圧用4Vである。 復調調整 本機の検波回路は再生検波(オートダイン検波)方式であるが、変調電信及び電話(A2・A3)等の変調信号の復調は再生検波方式により、電信(A1)の復調はオートダイン検波方式により行う。 A2・A3の受信調整は対向を受信後、回路が発振直前で、最高復調感度となり、且つ安定した再生検波状態となる様に設定する。調整操作はまず、再生調整器により再生状態を増加させる。復調音量が増加し、選択度が向上するため、同調点が若干変化する。再同調を行い、同調ダイアルと再生調整器を交互に微調整し、軽い発振状態となるまで調整操作を行う。発振点を確認した後、再生調整器を発振寸前の状態に設定する。この設定位置が再生検波に於ける、最高感度点である。 A1の復調は、オートダイン検波方式により行う。まず、再生調整器により再生回路の帰還量を増大させ、検波回路を軽い発振状態に設定し対向を受信する。この状態はオートダイン検波であり、変調、非変調波は共にビートとなる。同調ダイアルと再生調整器を交互に微調整し、軽い発振状態を維持しつつ、復調信号音が最大と成る様に調整操作を行う。同調操作を繰り返し、最高感度で、安定した復調状態が得られるように調整する。混信がある場合は同調を若干ずらし音調を変化させ、音感選択により目的の信号を復調する。写真補足 組写真@はH2L/7の前面構成で、左の窓が同調ダイアル板、中央がバンド表示窓、右が運用周波数と当該バンド表示板である。受信機左側下部は空中線同調器、その右が同調ノブ、中央がバンド切替器、右側は音量調整器、隣が受話器端子、右端が再生調整器である。 写真Aは受信機内部で、大型のターレット式同調コイル群が中央に装置されている。コイルの左側には高周波増幅部及び検波部が、右側には低周波増幅部が配置されている。左前面の円形同調ダイアル板は二重構造である。 写真BはH2L/7のシャーシ内部で、左側のダイキャスト製ケースの中に同調蓄電器が装置されている。シャーシの左側面には、空中線端子、鉱石受信時の受話器端子、再生設定補助用の半固定可変抵抗器が装置されている。中央が同調コイル群で、巻き線の少ない短波帯コイルには固定用として高周波ニスが薄く塗られている。バンド切替器の取手下側に配置された端子は電源接続用である。右側は低周波増幅部であるが、配線は欧州製機材の特徴を示している。 写真Cは高周波増幅及び検波部である。横向けに装置された真空管はPHILIPS B442の代用管であるドイツのRES094で、本来はスプレーシールドが施されている。本管はB442より丈が高いため、先端の樹脂製トッププレート端子を簡単な金属キャップに改造し、無理矢理装備している。RES094が装置された筺の上部に配置された端子は鉱石検波器収容部であるが、入手時、鉱石検波器は欠損していた。高周波増幅管、高周波増幅部同調コイル及び検波部同調コイルは金属板により、中央で隔絶、シールドされる構造であることが判る。