今般、国内のNet Auctionで「97式短測波器(一型)線輪函」を入手した。この「函」は帝国海軍の「97式短測波器(一型)」を構成する同調線輪セットであるが、之まで当館は測波器本体を所蔵するも、付属コイルは未所蔵であった。入手した同調線輪はオリジナルの木箱に収容され、構成全コイル四本が揃った良品で、これにて、漸く97式短測波器一式が揃う事になり、誠に幸である。測波器概観 97式短測波器は1937年(昭和12年)に導入された短波帯用の吸収型周波数計で、構成線輪4個で3,500-20,000KHzを測定する。同調コイルは小型の木函に収容され、巻き線は2周波数帯の兼用構造で、差し込み方向を違えることにより、バンドの選択を行う。このため、本測波器は8バンドで当該周波数帯を測定する。 97式短測波器は差替式同調コイル、可変同調蓄電器、鉱石検波器及び200μAの電流計により構成され、同調回路は並列共振回路方式である。本器は測定精度を高めるため、同調回路と同調指示回路が独立した構成で、資料によるとその測定確度は0.1%である。 同調ダイアル機構はギア減速方式で、同調は副尺を備えた100分割目盛のダイアル板を小型のノブで回転させ行う。また、覗き窓には目盛の読取精度を向上させるため、拡大用のレンズが装置されている。同調用可変蓄電器は容量直線型で、周波数は添付の置換表により読み取る。海軍周波数測定器 帝国海軍では周波数計を測波器と称し、その精密測定型を電波監査機と呼称したが、通常の測波器は吸収型周波数計構成で、精密型はヘテロダイン周波数計方式である。海軍では通常装置する送信機に対し一台の周波数計を付与したが、これらは吸収型測波器で、精密測定型の配備は一艦艇、又は、一送信所に一台程度であったと考えられる。 海軍の測波器には各種があるが、大正末期に制式化された(大正)15年(1926年)式1号測波器とその類型は直列共振回路構成で、同調表示は豆電球又は熱電対型電流計であり、資料によるとその測定確度は0.1-0.2%であった。しかし、これらは感度が悪く、同調点が判然とせず、また熱電対型は素子が焼断し易い欠点があった。 この時期、海軍のヘテロダイン式周波数計の原型とも云うべき15年式2号測波器(長波用)が開発された。2号測波器は三極管一本で構成された格子同調型の自励発振器で、ゼロビート方式で15-3,000KHz(20,000-100m)を測定したが、本器は基準周波数発振器としての水晶発振機能を備えておらず、測定以前に、自器の周波数較正が問題であった。 短波用の新型吸収型測波器については、1932年(昭和7年)頃に三極管の二極管接続による真空管検波、電流計同調指示方式の92式が導入された。本式では同調回路に並列共振回路が採用され、指示回路が同調回路と分離され、結果、同調点が明確と成り、測定確度は0.1%に向上した。その後、検波管は鉱石検波器に置き換えられ、今般入手した97式短測波器はこれら92式の発展型である。電波監査機 海軍艦艇用送信機の発振構成は自励式の物が多く、送信周波数(波長)の測定及び測波器の周波数較正は誠に重要であり、このため、1930年(昭和5年)に90式1号測波器が開発された。本器は単球式の水晶発振器で発振周波数は375KHzであり、ヘテロダイン方式により送信波の測定、併せ測波器の較正を行った。 続いて、1932年(昭和 7年)には既設の15年式2号測波器の後継機とも云うべき、92式電波監査機(長波・短波)が導入された。本機は水晶基準発振器を備えた完全なヘテロダイン式周波数計で、測定確度は測波器とは一桁違う0.02-0.03%であり、送信周波数の測定、測波器の較正をおこなった。以降、各種の電波監査機が導入されたが、特に大戦期にあっては電波兵器(レーダー)用として、VHF、UHF帯用監査機の開発が進んだ。写真補足 組写真@の左が今般入手した97式短測波器線輪函で、右が97式短測波器の本体である。装置したコイルの左側、円形状の蓋内部に鉱石検波器が収容されている。 写真Aは97式短測波器の雛形である92式短測波器の回路図である。左が原型で検波は直熱式三極管UX-201Aの二極管接続式、右は92式短測波器改1で、検波は鉱石式である。 写真Bは97式短測波器の内部で、左下部の筒が鉱石収容部である。 写真Cはヘテロダイン周波数計の92式電波監査機で、本機は長波、短波兼用である。回路図出典: 艦艇の無線兵器技術小史(津村孝雄)