先の帝国陸軍3号型水晶片に続き、海軍型水晶片を分解してみた。海軍型水晶片は接触金具と水晶板の圧着が良く、陸軍の3号型水晶片と比べその動作は遙かに安定しており、発振不良は極希である。 海軍型水晶片は長波用及び短波用に大別することが出来、両発振子の内部構造は大分異なっている。また、大凡1935年(昭和10年)以降に製造された水晶板は構造から、長波用はXカット、短波用はRカット(ATカット)と考えられる。海軍に於ける水晶発振子の使用 帝国海軍は陸軍とは異なり、大戦終了まで送信機は主発振式(自励発振)及び、水晶発振式が混在し、水晶制御方式化の徹底には欠けていた。これは、艦艇に一度大型の送信機が装置されると、その換装は容易ではなく、このため、新造艦艇でない限り、新たに開発された水晶制御式送信波機の搭載が難しかった為と考えられる。 海軍に於ける水晶発振子の使用は、既設機材の改良より始められた。1928年(昭和3年)に制式化された88式短4号及び改1(出力500W)、短5号(250W)送信機を電力増幅器に改造し、本装置に水晶発振装置及び、多段増幅器を付加した。本改良型が、制式化された海軍艦艇用送信機の1号機と考えられ、改造時期は1931年(昭和6年)頃ではないかと推察される。 その後1932年(昭和7年)に制式化された92式送信機では自励発振と水晶発振の混在が始まり、水晶発振子の使用が拡大していった。このため、海軍型水晶片の開発は1932年(昭和7年)頃ではないかと推察される。続いて1935年(昭和10年)に95式送信機各種が導入され、運用周波数の全てで水晶制御方式が適用されるようになった。海軍の水上艦艇用送信機の開発は95式で終了するが、例外としてこれ以降も、潜水艦用に長波帯、短波帯兼用の特型送信機が若干開発された。 一方、海軍航空部隊では、陸軍とは異なり、1936年(昭和9年)に制式化された94式機材であっても主発振方式が採用され、送信機に水晶制御方式が全面的に導入されたのは1936年(昭和11年)に制式化された96式機材からである。海軍型水晶発振片の構造 本水晶片の外筺はモールド製で、突起物を除く容積は36 x 15 x 36mmである。筺の裏表にはアルミ板の蓋が取り付けられ、発振出力端子として機能するが、内部構造は長波用、短波用では大分異なっている。海軍型水晶片は、受け口にスライドさせ装着する構造で、上面には蓋の留めネジを兼ねたガイド用の突起物二本が装置されている。 長波用水晶片 水晶発振筺の内部は縦26mm、横28mmのスペースで、ここに厚さ1.5mmの砲金製接触金具二枚で水晶板を挟んだ発振部が収容される。発振部の上面、下面には厚手のフエルトが敷かれ、外蓋のアルミ板二枚で全体を圧着、固定する構造である。また、内部の左右、上下にはフエルトが詰め込まれ、発振部を固定するが、フエルトと発振部の間には絶縁材として、雲母板が挿入されている。 水晶接触金具には接線が半田付けされており、この導線を発振片表面、裏面のアルミ板と収容筺の間に挟む様にしてネジで固定する。また、水晶板の大きさは発振周波数により異なる為、接触金具の大きさは水晶板に合わせ作られている。 なお、水晶板の構造から、長波用水晶板はXカットと考えられる。 短波用水晶片 本水晶収容筺の内部スペースは20 x 20mmで、四隅には円形の穴が付加されている。水晶発振部は20 x 20mm、厚さ1.5mmのアルミ合金製接触金具二枚で同一面積の水晶板を挟んだ構造で、下面の接触金具は直接ケースのアルミ製裏蓋に接触する構造である。また、上面の接触金具には板バネが乗せられ、之を表蓋のアルミ板で押しつけ、ネジ留めする。 水晶板を挟む接触金具の材質、構造は陸軍の3号型水晶片と同一で、接触側は内部が円周に極浅く削られ、残った四隅で水晶板を挟み込む構造である。海軍型水晶片に関わる若干の私見 本型の水晶片は今日でも良く発振し、動作不良品は殆どない。陸軍の3号型水晶片とは異なり、構造的に接触金具と水晶板の圧着が十分で有る事がその要因と考えられる。しかし、長波用水晶片では、発振部よりの接線と裏表のアルミ製蓋との接触部が酷く電蝕した物もあり、設計の拙さを感じる。写真補足 組写真@が海軍型水晶片で左が表面、右が裏面です。表面のアルミ製蓋は、水晶片装着用のガイドを兼ねた二本のネジで固定されている。裏表のアルミ板は蓋を兼ねた発振部の出力端子である。 写真Aは長波用水晶面の内部で、アルミ製上蓋、フエルト製緩衝材、水晶片の上部接触金具を取り外した状態である。水晶片の上下、右端にはフエルトが押し込まれ発振部を固定している。発振部と周囲のフエルトの間には絶縁材としてマイカ板が挿入されている。 写真Bは長波用水晶片を完全に分解した状態である。発振周波数は400KHz台で、水晶片の厚さが判る。 写真Cは短波用水晶片を分解した状態である。構造は簡潔で、収容ケース内部のスペースは水晶板、接触金具と同一サイズである。収容部の四隅には円形の穴が付加されている。発振部は左の板バネで圧着固定される。