下項で掲示の如く、先日横須賀市野比にある横須賀リサーチパーク(Yokosuka Research Park)に開設されている「YRP無線歴史展示資料室」を見学させて頂いた。YRPはかねてよりこの地にあったNTT横須賀通信研究所を中心に、公的な研究機関や国内外の主要企業、大学の研究室が集合した無線通信分野の一大研究開発都市で、場所は東京湾に面した野比に位置している。 このため、当日は先般ポーランドより入手した携帯式対空監視用電波探知機、「9S13」を携行し、東京湾を航行する船舶のレーダー波を探知してみる事にした。電波探知機「9S13」 本機は冷戦時代にソビエト陸軍が開発した歩兵用の対空警戒用電波探知機で、レーダーを搭載した攻撃機やヘリコプター等の敵航空機を探知、発見し、併せ携行する小型の地対空ミサイルでこれを殲滅しようとする誠に劇画的な兵器である。 「9S13」の構造は非常に簡素で、装置は簡易なホーン型空中線、シリコン系検波器、空洞共振器及び、半導体の低周波増幅器により構成され、探知は片耳式受話器方式である。云ってしまえば、「9S13」はマイクロ波用の鉱石ラジオであるが、先の大戦中、ドイツの潜水艦隊は本機に相似した機材により、英米の対潜哨戒機や駆逐艦と壮絶な戦いを繰りひろげた。 実戦に於ける本機の使用方法は至って簡単で、ホーン型空中線を探知機の筐体上部又はヘルメットに取り付け、装置を首から吊し、受話器を装着し、前方の空中を探索する。探知試験 さて、当日は「YRP無線歴史展示資料室」を見学の後、三浦海岸に移動し、剣崎及び三崎向に分かれる三叉路に位置するマクドナルドで受信試験を行う事にした。この店の前は東京湾の出入り口である浦賀水道で、18Km先は対岸の房総半島に位置する金谷であり、その背後は館山である。 両岸の中間点が水路で、東京湾に出入りする本船は必ずここを航行する。当日は花曇りで視界は必ずしも良好ではなく、また、16時過ぎのこともあり、頻繁に往来する船舶のレーダー波受信には好都合と考えられた。 幸い店内には客もなく、早速沖合に向け探知機をセットした。目視出来るだけでも、測定が可能と思われる範囲には5〜6隻の大型船舶が航行している。ドキドキしながらスイッチを入れると、複数のレーダー波がS5〜8程度で良好に受信出来た。 信号音はギャッ・ギャッ・ギャッ、キッ・キッ・キッ等色々であるが、各受信波の繰り返し間隔は2.5〜3秒程度であり、このため、空中線の回転数は20〜24/分位と考えられた。 現在の船舶用レーダーの運用周波数は9000MHz台、繰り返し周波数は300-4000Hzと考えられるが、当該電波探知機は受信周波数の確定を行う事が出来ず、また、連続受信ではないため、繰り返し周波数についても明確に確認することは出来ない。 ところで、以前一度、本探知機を入手時に、近郊の厚木飛行場で受信実験を行ったが、その際は受信信号が1波で、それがレーダー波であるのかは確定出来なかった。しかし、今般の受信波はレーダーパルスに間違いはなく、野戦用電波探知機で実際のレーダー波を受信出来、誠に大感激であった。 その後はポテトを食べながら、方位の確定など、暫く遊ばせて頂いたが、鉱石式マイクロ波用電波探知機の有効性を実感すると共に、この様な兵器で戦った先人達の苦労が偲ばれた。