この度、ドイツの収集家Ted Gierlach氏より、ドイツ空軍の射撃管制用レーダーFuSE-62A「ウルツブルグ」を構成した傍熱三極管LS30及び、その改良型であるLS394を入手した。当館は是まで、電源関連及び表示管を除くウルツブルグ各型の構成真空管を収集していたが、今般の入手により、漸くその収集作業を完了する事が出来、誠に幸である。 なお、ウルツブルグはドイツ空軍の対空射撃管制用レーダーであるが、大戦中帝国陸海軍は本機の導入を図り、大戦末期になり陸軍は電波標定機「タチ24号」として数機を完成させた。 また、ウルツブルグ導入の経緯は、津田精一著「幻のレーダーウルツブルグ」(CQ出版)として出版され、広く世に知られることになった。各機構成真空管 所蔵資料によると、各ウルツブルグ及び関連機材を構成した真空管は、表示管(ブラウン管)及び電源関連真空管を除くと、以下の様な物である。◎FuSE-62A型、最大感度測定方式、(注-1) ・LD180 (直熱三極管)、衝撃波(パルス)発振 ・LS30(傍熱三極管)、受信機局部発振回路原発振(P.P.構成) ・LD2(傍熱三極管)、局部発振4逓倍、(P.P.構成二段) ・LG2(傍熱双二極管)、受信機第1検波 ・LG1(傍熱双二極管)、受信機第3検波、送信出力監視 ・LS50(傍熱五極管)、パルス信号増幅 ・RV12P2000(傍熱五極管)、高周波部・信号部汎用増幅◎FuSE-62B・C型、等感度測定方式型、(注-2) ・LD180、パルス発振 ・LD2、受信機局部発振回路原発振(P.P.構成) ・LD5(傍熱三極管)、受信機局部発振4逓倍 ・LG2、受信機第1検波、送信出力監視 ・LG1、受信機第3検波 ・LS50、パルス信号増幅 ・LV1(傍熱五極管)、信号増幅 ・RV12P2000、高周波部・信号部汎用増幅◎タチ24号(FuSE-62D型)、等感度測定方式、(注-3) ・LS180、パルス発振 ・LD5、受信機局部発振 ・LG2、受信機第1検波 ・LG1、受信機第3検波 ・LS50パルス信号増幅 ・LV1、信号増幅 ・RE-3(傍熱五極管)、高周波部・信号部汎用増幅 ・送信出力監視管、未表記ウルツブルグの開発 1938年(昭和13年)、テレフンケン社はパラボラ型反射鏡の焦点にダイポールアンテナを装置した短距離対空監視用可搬式レーダーを開発した。翌年ドイツ空軍は本機の調達を決定し、1940年(昭和15年)4月に生産型のFuSE-62型が完成したが、本機の測定方式は最大感度方式であった。 その後高射砲部隊が本機を対空射撃管制用レーダーとして調達することを決定すると、輻射空中線が偏心指向特性を持つ、スピンナー方式の精密測定型が開発された。この空中線装置は輻射用ダイポールを1/25秒で回転させ、発生する紡錘型指向特性で受信する反射波を、左右・上下の位置で1/100秒毎に抽出し、各出力波形を等感度方式で精密測定するものであった。本対空射撃管制型レーダーがFuMG-62型(高射砲部隊型)で、以後導入が図られた普及型ウルツブルグ(FuSE-62B型以降)の雛形となった。ウルツブルグの対空射撃管制能力は非常に高く、本機は大戦終了まで連合国側にとっては脅威の存在で、レーダー史に記録を残す傑作機となった。FuMG-62型(精密測定式原型)緒元波長: 53cm(560MHz)空中線: パラボラ型尖頭出力: 8kw最大有効距離: 25km測定方式: 等感度測定画像表示: 監視・距離測定-Jスコープ方式、高角・方位測定-Aスコープ方式測距精度: ±10-50m測角精度: ±0.5°測高精度: ±0.5°総重量: 約1,500kg製造: テレフンケンウルツブルグと国産型真空管 FuSE-62型は独逸テレフンケン社が開発した対空監視・射撃管制用レーダーで、大戦の初期より終了まで、ドイツ空軍の主要対空兵器として広義に使用された。帝国陸海軍は帝都及び重要拠点の防備を図るため、ウルツブルグの導入を企画し、ドイツより入手した図面、機材を基に、日本無線を中核製造会社として国産化を進め、大戦最末期になり陸軍は「電波標定機タチ24号」として数台を完成させた。 本機の開発、製造に当たり構成真空管の全てが国産化されたが、製造は極めて少量であったと考えられ、此までに当館が確認した該当管は、サイドコンタクト式の汎用五極管RV12P2000の国産型であるRE-3及び、米国の収集家が所蔵するLS50の僅か二本のみである。RE-3は、帝国海軍が大戦直前に開発した対空監視用レーダーである「仮称1号電波探信儀1型」の受信機に使用されており、このため、本管の国産化はウルツブルグ導入以前と考えられる。 当館が所蔵するウルツブルグ該当国産管はRE-3の一管種みであるが、本管は原型となるRV12P2000と比べ、丈が数ミリ長く、原型のソケットに装置することが出来ない。また、LS50のベースは特殊なロクタル構造であるが、国産型はロックキーの太さ、長さが原型とは異なり互換性がない。これらから推測して、国産型ウルツブルグの構成管は、何れも原型とは構造、寸法を若干異にして開発されたものと考えられる。 なお、各管の詳細規格及び構造は、以下のデータベースで検索することが出来る。 http://tubedata.jp/index.php?M=search&brand=Wehrmacht+R写真補足 掲示組写真@は今般入手したLS30及び改良管のLS394である。LS394の頭部アルミ製マントルは欠損している。 写真Aは既に収集したウルツブルグ系レーダーの構成真空管である。送信管LS180は左が前期型、右が後期型である。 写真Bはウルツブルグの普及型で、測定は等感度方式である。パラボラに敵味方識別装置(IFF)の空中線が装置されて居ないので、本機は前期型と考えられる。 写真Cはウルツブルグの国産型である帝国陸軍のタチ24号である。写真の裏書きにTokyo Fighter Control Centerとあるが、これが何処の施設かは不明で、また、本機は未完成品であ。 (注-1) 資料出典「ドイツ空軍使用規定1941年3月」、帝国陸軍が入手し、翻訳したウルツブルグ「FuSE-62 A型」の使用規定書。本機は初期型の最大感度測定仕様である。(注-2) 資料出典「極超短波標定機報告、在独逸・昭和18年1月」、陸軍科学技術研究所の佐竹金次中佐が独逸滞在中に纏めた精密測定型ウルツブルグに係わる報告書。(注-3) 資料出典「Japanese War Time Military Electronics and Communications Section Y JAPANESE ARMY RADAR」