この度、帝国海軍の航空部隊機上用無線電信機である18試・19試空3号無線電信機の外筐体を入手した。当館は18試空3号無線電信機の本体は所蔵するも、19試空3号は受信部と長波延長線輪のみで、送信部と外筐体は未所蔵であった。 18試空3号無線電信機は1943年(昭和18年)に開発された海軍航空機用の汎用無線電信機で、単座機を除く全ての航空機に搭載が予定された戦時型機材である。19試は18試の改良・量産型で、帝国海軍航空部隊が導入した最後の無線電信機となった。入手外筐体 18試空3号の外筐体はサビや塗装の落ちは有るが、欠品の無い良品で、構造より製造は川西機械製作所と考えらる。一方、肝心の19試空3号無線電信機の外筐体は程度が悪く、緩衝用ゴム紐を掛ける吊金具の全てが取り外され、また、送受信部上部の蓋も欠落していた。しかし、当館は是まで本機の受信部は所蔵するも、外筐体と送信部は未所蔵で、このため、今般の入手は誠に幸であった。19試空3号無線電信機捕捉 本機は18試空3号無線電信機の量産型で、18試で前面に配置されていた送受信機接続端子を内部接続方式とし、併せ、無線装置の構造を量産に適合させるため、若干の変更を施したものである。構成回路、構成部品は18試空3号と殆ど共通であるが、全体として更なる簡易化が進み、戦時型の色彩が強い電信機である。19試の容積は18試より若干大きく、また、外筐体には放熱用のスリットが付加され、底部には卓上使用を考慮して木製の台が付加されている。 なお、facebook「旧日本軍無線機etc.」に関連写真を掲示した。 https://www.facebook.com/groups/1687374128228449/18試・19試空3号無線電信機緒元通達距離: 短波(A1)1,000浬以上運用周波数: 300-500kHz(長波)、2,500-10,000kHz(中・短波)電波形式: A1(電信)、A2(変調電信)、A3(電話)送信出力: 150W(A1)送信機: 水晶叉は主発振(FZ-064A)、電力増幅(FB-325A)、第三格子変調受信機: スーパーヘテロダイン方式(ソラ9球)、高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅1段、側音発振送信機電源: 回転式直流変圧器(入力12V)受信機電源: 回転式直流変圧器(入力12V)内蔵式空中線: 短波・中波帯固定式、長波帯垂下式18試・19試空3号無線電信機の導入 1942年(昭和17年)、海軍航空技術廠(空技廠)は従来の航空機材各種の刷新を目指し、96式空3号無線電信機の後継機として、2式空3号無線電信機を導入した。本機は大戦直前に空技廠が開発した新型の真空管により構成され、運用周波数範囲、構造、受信機構成他全てに於いて96式機材を凌駕する高性能電信機であった。しかし、本機は構造が複雑で、量産には適しておらず、また、受信機を構成した万能五極管FM-2A05Aの生産性には問題があった。他方、開戦以降航空作戦は拡大の一途を辿り、その需要を本機で賄うことは困難となり、従来の96式機材を補完的に製造するような状況に立ち入った。このため、戦況の悪化により物資が窮乏し始めると、もはや2式空3号無線電信機の生産を続けることは適わず、空技廠は急遽、東芝が開発した万能五極管ソラを使用した汎用の無線電信機、18試空3号を開発した。本機の運用周波数は長波が300-500KHz、中・短波は使用頻度の高い2,500-10,000KHzに限定され、回路構成や構造も2式空3号無線電信機と比べ大幅に簡略化された。また、1944年(昭和19年)になると、18試空3号の普及型である19試空3号無線電信機が導入され、本機は量産が行われた海軍航空部隊最後の無線電信機となった。18試(19試)空3号無線電信機装置概要 本無線電信機は送受信機、長波空中線延長線輪、電源装置及び空中線装置他により構成されている。送信機と受信機は96式空2号無線電信機と同様に、横並びの配置で同一の外筐体に収容され、18試の容積は27.5x38.5x26cm(27.5x42.5x29.5cm)、重量は約17kg(約18Kg)である。本電信機は収容ケースの両側面に装置された吊金物に緩衝用ゴム紐を掛け、通信席の無線装置架に宙づりの状態で固定された。18試空3号の運用形態は電信((A1)、変調電信(A2)及び電話(A3)で、電信の運用は電鍵操作によるブレークイン方式であり、電話は送話器に付加された押しボタンスイッチによるプレストーク方式である。 本電信機の特徴は送信機の発振回路が2,500-5,000KHzの中波帯のみで、5,000-10,000KHzの短波帯はその第二高調波を使用する構成であるが、電力増幅段は中波帯、短波帯共に同調回路を具えておらず、両周波数帯を1バンドで運用する事である。このため、電力増幅段は、基本波、高調波を併せ増幅し、中波、短波帯は空中線同調回路の周波数共振特性により選択する。また、受信機は生産性に問題のあったFM-2A05Aに代え、東芝が急遽開発した同等万能管ソラを使用し、回路構成も2式空3号無線電信機のそれとは異なり、簡潔なスーパーヘテロダイン構成となっている。18試/19試空3号無線電信機各部概説送信機 本機の構成は発振・電力増幅方式で、電波型式は電信(A1)・変調電信(A2)・電話(A3)である。運用周波数は長波帯が300-500KHz、中・短波帯は2,500-10,000KHzの1バンド構成で、各周波数帯は1個の水晶発振子を装備することが出来る。 発振回路はビーム管FZ-064Aにより構成され、発振周波数は中波帯の2,500-5,000KHzの1周波数帯のみで、短波帯5,000-10,000KHzは原発振の第二高調を使用する。運用は通常水晶発振子を使用するが、取り外すと、自励発振回路として動作する。電力増幅回路は第三格子変調に優れた五極送信管FB-325Aで構成され、陽極電圧は1,500V、A1出力は150W、A2・A3は40Wである。本増幅回路は中・短波帯用の同調回路を具えておらず、中波帯(原発振周波数)及び短波帯(第二高調波)の選択は空中線同調回路の共振特性により行う。このため、運用周波数の確認用として、送信機には外部付加式の吸収型周波数計が装置さ、本器は常時空中線に接続される構成である。 空中線同調回路は同調用可変式インダクタンス(バリオメーター)、空中線電流計及び外部設置の平衡用半固定式蓄電器により構成されている。空中線出力は平衡型であるが、通常片側は可変式平衡蓄電器を介し接地され、空中線接地式同調回路を構成し、調整により機体装備の固定式空中線に運用周波数の1/4波長で同調させる。同調はバリオメーターにより行うが、対応周波数帯が2,500-10,000KHzと広範のため、運用周波数に応じ可変式平衡用蓄電器を併せ調整する。 本機の変調は電力増幅管の第三格子変調方式である。A2運用時、電鍵回路により制御される変調用低周波信号は電力増幅管の第三格子に加圧され、A2変調を行う。また、A1・A2運用時、同低周波信号は電信符号モニター用の側音とし、受信機の受話器回路に出力される。変調及び側音用低周波発振回路は受信機内部に装置されており、電鍵回路で制御され発振する。A3運用時に使用する送話器は低圧カーボン式で、出力は整合用変圧器を介し、電力増幅管の第三格子に加圧される。 なお、本電信機には変調度向上のため外部付加式の「変調器(音声増幅器)」が整備されているが、接続箇所は送話器接続端子である。 長波帯構成 長波帯の同調には外部付加式の長波空中線延長線輪を使用する。本機は切替可変式の空中線延長線輪、同調用バリオメーター、空中線電流計等により構成され、陽極同調回路及び空中線同調回路を構成する。使用空中線は垂下式で、同調操作によりに1/4波長に同調させる。 送信機電源装置 本電源は回転式直流変圧器方式で、装置は高圧、低圧発生用変圧器2基により構成され、重量は約20kgである。入力電圧は直流12Vで、高圧出力は1,500V/200mA、低圧出力は500V/250mAで、線條電圧等の低圧12Vは入力電源を濾波し供給している。 受信機 18試空3号の受信機は高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅1段のスーパーヘテロダイン方式で、AGC・BFO機能を具え、運用周波数は長波帯が300-500KHz(周長)、中・短波帯は2,500-5,000KHz(周基)、5,000-10,000KHz(周1)の3バンド方式である。受信機を構成する全真空管は、東芝がFM-2A05Aの代替えとして開発した万能五極管ソラである。 本機のフロントエンドは非同調方式の高周波増幅回路、周波数混合回路(第一検波)及び局部発振回路により構成され、局部発振回路は自励又は水晶発振の切替方式であり、固定周波数受信用の実装水晶片は2個である。各段の同調回路は2連式可変蓄電器により構成され、同調機構はバーニアダイアル方式で、同調周波数は添付の置換表により読取る。 中間周波増幅回路は2段増幅方式で中間周波数は635KHz、第二検波は陽極検波方式である。電信復調用のBFO回路は格子同調反結合発振方式で、出力を第二中間周増幅管の第一格子回路に注入している。低周波増幅回路は1段増幅方式で、出力インピーダンスは大凡4KΩである。受信機の手動利得調整は、高周波増幅管及び中間周波増幅管のカソード電圧可変方式である。 本機はAGC機能を具えており、電話選択時に、第二検波回路で発生させた制御電圧を高周波増幅管、中間周波増幅管の第一格子に加圧している。 受信機内部にはソラの三極管接続で構成される約1,000Hzの低周波発振回路が装置されており、送信機の電鍵回路で制御され発振する。出力はA2変調用信号として送信機の変調回路に供給され、併せ、電信符号の確認用側音として受話器回路に出力される。 受信機電源装置 本受信機の電源は直流12V入力の回転式直流変圧器方式で、高圧出力は250V/65mA、低圧用12Vは濾波器を介し入力電源を出力している。本電源装置は受信機シャーシ下部に装置されているが、電源の接・断は送信機の転換器により行う。空中線装置 中・短波帯の空中線装置は航空機に設置された全長約7mの固定式空中線であり、空中線同調回路により1/4波長に同調させる。長波帯は長波延長線輪装置により、全長約80mの垂下式空中線に同調させる。 なお、「19試空3号無線電信機・機上取扱参考書」には、小型機に於ける中波帯の送信について「垂下式空中線ヲ使用スルヲ建前トス」と記されている。写真捕捉 組写真@が今般入手した18試、19試空三号無線電信機の外筐体である。 写真Aは18試空3号無線電信機で、左が受信機、右が送信機である。 資料Bが19試空3号無線電信機の装置外観図で、左が長波延長線輪、右が無線機本体である。 写真Cが19試空3号無線電信機関連機材で、左が長波延長線輪、右が今般入手したケースに収めた受信機で、送信機は未所蔵である。