今般、知人の収集家より、陸軍が大戦後期に開発した輸送船団用レーダーである「船舶用電波警戒機乙」(タセ1号)の送信周波数測定機材である「船舶用超短波警戒機(乙)・超短波吸収型電波計(RI-408B)」及び、米国General Radio製の「RECTFIRE TYPE WAVE METER」を入手した。 タセ1号用吸収型周波数計の入手は、先に掲示した本機材用の送信管TR-323に続き時を得ており、誠に幸であった。入手機材 本周波数計は東芝製で、検波管は三極管30一本であり、同調は電流計指示式である。残念ながら、差替式同調コイル及び周波数置換表は欠損していたが、東京電機のカタログ(昭和15年)に同一機材であるRI-408B型周波数計が掲示されており、運用周波が20-200MHz(3バンド)であることが判明した。このため、本機は備品と成る電波兵器の型式に併せ銘板の標記を変える、汎用の吸収型周波数計であったと考えられる。入手周波数計にはパイロットランプ他が追加されていたが、これらを取り去り原状を仮回復した。 また、RI-408Bと併せ、その構造が相似した米国のGeneral Radio製の吸収形周波数計を入手した。本機の運用周波数は40-300MHzで、全構成同調コイル3本及び、周波数置換表3枚が付属していた。当該周波数計の構造はRI-408Bと同一で、このため、戦前東京電機がGeneral Radio製品を、全面的にコピーしたものと考えられる。吸収型周波数計(RI-408B)概観 本機は同調コイル、同調蓄電器、検波用直熱式三極管30及び、同調指示用電流計により構成されている。同調回路は並列共振方式で、検波管の線條用電源は乾電池構成である。外部接続式同調コイル及び周波数置換表は欠損していたが、カタログによると運用周波数は20〜200MHzで、この周波数帯を差し替え式コイル3本で対応する。同調用可変蓄電器は周波数直線型で、ダイアル数値の置換表はGeneral Radio製機材と同様に、周波数と波長の並列表記であったと考えられる。タセ1号電波警戒機乙船舶用 本機材は陸軍の主要対空監視用レーダーであるタチ6号の発展、簡易型で、空中線装置を除くと、その構造は陸軍の車輌装備式レーダーである「タチ7号」に類似している。タセ1号は主に陸軍の輸送船団の指揮船に装置され対空警戒を行ったが、然したる効果は得られず、このため、その多くは陸上使用に転用された。装置概要 タセ1号はタチ6号と同様に、装置が送信所と受信所に分かれたバイスタティックス方式のレーダーである。本機の運用周波数は地上設置型レーダーであるタチ6号の65-80MHzに比べ110MHzと高く、これは、船上に設置する空中線装置を考慮しての事と考えられる。両装置の設置間隔は船上使用でもあることから、50-100m程度で有ったと考えられるが、必要に応じ送信装置と受信装置を船団内の別々の船舶に装置する場合もあったと推察され、この場合は受信装置側に、同期用受信機及び同期用空中線が装置された。 タセ1号電波警戒機乙船舶用の警戒最大距離は300Kmで、測定は最大感度方式であり、波形表示は反射波の強度を縦軸に、距離を横軸(時間軸)に表すAスコープ方式である。タセ1号(船舶用電波警戒機乙)諸元用途: 対空早期警戒周波数: 110MHz繰返周波数: 375Hzパルス幅: 20-60μs尖頭出力: 50kw送信空中線: 箱形(4段)、無指向性、送信機: 発振管TR-323P.P.変調方式: パルス変調、変調管P-560受信機用空中線: 半波長ダイポール水平2列2段、反射器付、指向特性50°、回転式受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅3段(UN-954 x3)、第1混合(UN-954)、第1局部発振(UN-955)、第1中間周波増幅4段(US-6305)、検波(US-6C5)、信号増幅 (US-6305)中間周波数: 15MHz帯域幅: 500-700KHz利得: 120db測定方法: 最大感度方式信号表示: Aスコープ方式掃引幅: 0-150km、0-300km測定距離: 編隊200km測距精度: ±5km測角精度: ±7°電源: 3相220V、18kVAディーゼル発電機総重量: 4,000kg製造: 東芝製造台数: 約60台タセ1号装置概観 本レーダーは送信所と受信所に分かれたバイスタティックス方式で、送信所には無指向性送信用空中線装置、送信装置及び、電力供給用の3相220V、18kVAディーゼル発電機等が装置された。受信所には回転式受信空中線、受信装置、波形指示器等が設置され、電源は送信施設との共用であったと考えられる。また、指示器の同期用信号は送信装置より供給された。送信装置 送信設備は空中線装置、送信機及び、電源用3相220V・18kVAディーゼル発電機等により構成されている。 空中線装置 送信用空中線装置は箱形で、半波長ダイポール空中線素子4本を菱形に配置し、これを4段に組んだ無指向性空中線構成である。 送信機 本装置は自励発振式送信機及び、衝撃波変調機により構成されている。送信機はレッヘル線同調回路で構成される三極管RT-323P.P.による自励発振器で、変調管P-560によりグリッドを制御され、尖頭出力50Kwで発振する。送信装置には送信出力波形を監視する、簡易なオシロスコープが装置されている。 衝撃波変調機は同期信号発生器及び、変調部により構成されている。同期信号発生器はブロッキング発振回路により375Hzの同期用信号を発生し、変調部及び受信所の波形指示器に供給する。変調部では同期信号より幅20-60μs のパルスを発生させ、変調管P-560に供給し、変調管は出力パルスにより発振管RT-323のグリッドを制御する。受信設備 本設備は受信空中線装置、受信機及び波形観測を行う指示器により構成されている。 空中線装置 本空中線は半波長ダイポール水平2列2段構成反射器付で、回転は手動式である。 受信機 本機は高周波増幅3段、中間周波増幅4段、信号増幅1段のスーパーへテロダイン方式で、中間周波数は15MHz、帯域幅は500-700KHz、総合利得は大凡120dbである。 指示器 本器は掃引信号発生回路及び、表示管回路より成る静電式のオシロスコープである。掃引信号発生回路は変調機より供給される同期信号375Hzを基に掃引用鋸歯状波を発生させる。波形表示は反射パルスの振幅を縦軸に、距離を時間軸で表すAスコープ方式で、測定は最大感度方式である。本指示器は距離測定用のマーカー信号発生回路を内蔵しており、基本同期周波数375Hzを8逓倍して3KHzを発生させ、1目盛50Kmの測距用信号を発生させている。探索操作 探索担当は受信反射パルスを最大感度方式で測定する。本式ではパルスの振幅が最大となる様に空中線を回転操作して標的に正対させ、担当は空中線の角度により標的波の方位を測定すると共に、距離目盛により測距を行う。バイスタティックス構成 タセ1号は通常同一指揮船内に送信所と受信所に分け設置され、送信装置で発生させる同期信号は有線で受信所に供給された。しかし、送信所と受信所を別々の輸送船に装置する場合は、受信所に対し同期信号を供給する必要がある。この場合は受信所側に主受信装置とは別に、送信波より同期信号を抽出する同期用受信機及び空中線を装置した。写真補足 組写真@が今般入手した吸収形周波数計二台で、左がタセ1号用の「船舶用超短波警戒機(乙)・超短波吸収型電波計(RI-408B)」、右がGeneral Radio製の「RECTFIRE TYPE WAVE METER」である。両機は極めて相似していることが判る。前に置いた周波数置換表及び同調コイルはGeneral Radio製品の備品である。 組写真AはRI-408Bの内部で、付加されていた回路を除去し、原状を仮回復した。 組写真Bはタセ1号の概念図で、タチ6号と比べ空中線装置は大幅に簡略化されている。 組写真Cは戦後、米国陸軍調査団が帝国陸軍の電子機器に関わる調査結果を纏めたJAPANESE WARTIME MILITARY ELECTRONICS AND COMMUNICATIONS SECTION Y JAPANESE ARMY RADARに収録されたタセ1号の構成機材であるが、元資料が不良で各部は判然としない。当該装置の設置場所はKodaira Army Radar Schoolと記されているが、本施設は大戦後期に小平に創設された陸軍の電波兵器総合開発組織である「多摩陸軍技術研究所(多摩研)」の一部門であったと考えられる。