先般米国のEbay Auctionでマグネトロン「RD2Md」を落札し、今般ドイツより到着した。RD2MdはドイツTelefunken社が大戦後期に開発し受信機用のマグネトロンで、独逸空軍のマイクロ波レーダー「Berlin」の局部発振管として使用された。当館は大戦期に開発されたマグネトロン各種を収集しており、今般漸く念願のRD2Mdを入手する事が出来、誠に幸であった。RD2Md構造 本管は一見イチジク浣腸を連想させる構造で、外部同調回路に差し込むガラス管部は直径9.5mmで長さが45mm、その上部は直径17 mmで管の頂部ソケットまで達し、全長は約85mmと推察される。ガラス管の内部には二枚の導体が装置され、その中間に陽極が配置されている。陽極は直径約3mmの筒で、外見では4分割された構造である。 導体の外側にはヒーター電圧供給用の導線が装置され、両間には絶縁物としてはマイカ板が取り付けられている。また、陽極の前後および導体の先端には、構造を維持するためのマイカと推察される絶縁物が付加されている。 RD2Mdは高周波の出力接線を具えて居らず、外側に広がった導体先端部15mmを、ガラスを介し外部回路と静電結合させ、高周波を出力する構造である。RD2Md2諸元構造: 陽極4分割型波長: 8.5-16cm(1,800-3,530MHz)出力: 500mW 磁界強度: 1,450ガウス最高陽極電圧: 150V線條電圧: 2V / 0.17A開発: テレフンケン社類型受信機用マグネトロン RD2Md2の掲示に関連し、参考資料として当館が所蔵する大戦期の受信機用マグネトロンM-60及びML-15を併せ掲示した。M-60 本管は開戦前に日本無線が開発した陽極8分割構造の受信機用小型マグネトロンで、海軍の水上警戒用レーダーである「2号電波探信儀2型(22号電探)」系の検波管、局部発振管として使用された。マグネトロンM-60緒元構造: 陽極8分割型波長: 約10cm( 3,000MHz)出力: 40mW磁界強度: 700ガウス陽極電圧/電流: 200-240V/4mA線條電圧/電流: 5V/ 0.7-1.0A開発: 日本無線ML-15 本管は帝国陸軍が開発した輸送船用の潜水艦警戒レーダー、「タセ2号」の局部発振管として使用された。ML-15は陽極6分割型の小型マグネトロンで、発振波長は約15cm(1,900MHz)、出力はM-60 と同様に40mW程度と考えられるが、詳細な規格については不明である。ドイツ空軍マイクロ波レーダー「Berlin」 1942年(昭和17年)の末、英国空軍(RAF)はマイクロ波帯(3,300MHz)レーダーH2Sの開発を完了し、直ちに爆撃機への配備を始め、併せ、対潜哨戒機への転用を進めた。1943年(昭和18年)1月には、H2S を搭載した爆撃機の先導によりハンブルグを夜間爆撃し、大きな成果を上げ、その有効性を実証した。 1943年2月3日、ドイツ空軍はロッテルダム近郊に墜落したRAF爆撃機より新種のレーダー(H2S)を回収したが、本機が波長10cmのPPI式マイクロ波レーダーであることを知り驚愕した。当時マイクロ波帯レーダーを開発していなかったドイツは、直ちにH2Sに対応する電波探知機の開発を進めると共に、PPI方式の機上用マイクロ波レーダーの開発に着手した。開発は時間を短縮するため、H2Sを模倣することで行われ、1944年(昭和19年)の後半にFuG224(Berlin)として完成した。FuG224(Berlin)諸元周波数:3,300MHz(波長9.1cm)繰返周波数: 1500Hzパルス幅: 1μs空中線: 誘電体型2素子2組、探索範囲40°送信機: 送信管LMS-10(8分割マグネトロン)、尖頭出力: 25-30Kw受信機: スーパーヘテロダイン方式、第一周波数変換鉱石検波、局部発振マグネトロンRD2Md、中間周波増幅6段中間周波数: 5.6 MHz画像表示: PPI方式併設表示: Aスコープ方式方位測定精度: 3°探索距離: 45km製造: テレフンケン社Berlinの特徴 フロントエンド部 テレフンケン社が開発したPPI式マイクロ波レーダーBerlinは、H2Sを手本とし、送信用マグネトロンLMS10は、H2Sの陽極8分割型マグネトロンCV-64を模倣して作られたた。しかし、励磁はH2Sの永久磁石方式とは異なり、帝国海軍が22号電探で採用した電磁石方式であった。 一方、H2Sの局部発振回路には外部空洞共振器付反射型クライストロンCV67が使用されてたが、本管の模倣は時間的に困難であったのか、Berlinの局部発振回路には帝国海軍の22号電探と同様に、小型のマグネトロンRD2Mdが使用され、励磁は送信管とは異なり、永久磁石方式であった。局部発振回路はH2Sと同様に、波形表示装置の内部に装置され、遠隔より手動で同調周波数の補正を行う方式である。また、受信周波数変換用の鉱石検波回路は送信装置の内部に、TR管(送受信切替管)と合体した構造で装置された。 テレフンケン社がRD2Mdを開発したのは1944年の後半であり、このため、Berlinは本管の開発成功により完成したとも考えられる。 空中線装置 Berlinレーダーの最大の特徴は、空中線装置に誘電体型空中線を使用している事である。本空中線は半波長ダイポールの先端に先が丸い円錐状の誘電体ポリエステルを取り付けた構造で、2本の素子並列接続2組合により構成されている。技術大国のドイツに取り、H2Sのスキャナ式変型パラボラ型空中線装置を模倣するのは容易であったと推察されるが、ドイツ技術陣のメンツが本空中線を採用させたものと考えられる。また、本誘電体空中線の回転数は400回転/分、6.6回転/秒と非常に高速で、PPI式画像表示管の偏向コイルも同一の速度で回転する。このため、PPI表示管は残光性では無かった可能性も考えられる。写真補足 組写真@は今般入手した受信機用マグネトロン RD2Mdである。 写真Aは RD2Mdを装備する局部発振回路である。 写真Bは参考資料として掲示した受信機用マグネトロン各種で、左側が帝国陸軍の水上警戒用レーダー「タセ2号」の局部発振管ML-15である(本管は不良品で、陽極電極が外れている)。右側が帝国海軍の22号系電探に使用された検波・局部発振管のM-60である。中央手前がRD2Md、奥が電磁マウントに装置されたM-60である。 組写真CはBerlinの艦艇装備型である。写真A提供: Mr. Karl Gerhard Buck写真C出典: US「Naval History and Heritage Command」NH96449