当館は現在、帝国陸海軍の無線機材及び、レーダー等の電波兵器に関わる編纂作業を進めている。本作業に関連し、参考資料として、英米独の特徴有る無線機材及び、電波兵器についても併せ纏めを行っており、先週漸く最後まで残っていた各国のレーダー、電波探知機に関わる大凡の作業を完了した。 これら海外電波兵器は何れも特記すべき特徴を備えているが、この中でも、ドイツ空軍の夜間戦闘機用接敵レーダー「FuG-202 (Lichtenstein B/C)」は超再生式受信機で構成されており、誠に驚かされる。しかし、この超再生回路は非常に凝った構成で興味深く、このため、参考資料として以下に、その概要を掲示した。FuG-202受信回路 本受信機は変則の他励式超再生検波方式で、検波回路は超再生発振回路(超再生誘起)、修調周波数発振回路及び、外部検波回路により構成されている。◎超再生発振回路 本回路は三極管LD1で構成さるコルピッツ発振回路で、同調はループ状コイルと可変蓄電器による枠型同調方式である。 通常他励式超再生検波回路は、検波管の陽極に加圧される直流電圧を修調周波数により振幅し、超再生状態を誘起させる。しかし、本回路は変圧器を介し、修調周波数発振電圧のみをコルピッツ発振回路に加圧し、超再生状態を発生させる変わった構成である。◎修調発振回路(クエンチング周波数発振回路) 本回路は453KHzの発振・増幅回路で、五極管RV12P2000が発振を、五極管LV1が増幅を行う。修調発振回路は出力トランスの二次側に発生する453 KHzのクエンチング電圧を、コルピッツ発振回路に直接加圧する。◎外部検波回路 本回路は双二極管LG1により構成され、超再生状態のコルピッツ発振回路より受信信号を取り出す構成である。 超再生検波方式では、信号が受信されると、クエンチング発振電圧がその波形により制限され変化するため、これを検波して、復調信号として取り出す。通常検波は自励式、他励式に関わらず、検波管が格子、陰極間でグリット検波を行うが、本受信機では独立した検波回路がこれを行う構成である。外部検波回路はコルピッツ発振回路に結合され、クエンチング周波数により発振する回路の輻射波を検波し、受信信号を取り出しており、誠に変わった構成で、驚かされる。FuG-202(改良型)諸元周波数: 490MHzパルス幅: 0.9μs繰返周波数: 2.67KHz測定範囲: 2,800m(最大表示距離8,000km)、最少150m空中線装置(送受兼用): 半波長ダイポール反射器付4基スタック構成4組、各垂直偏波送信機: 発振管RS394(三極管)二本(P.P.構成)尖頭出力: 1kw変調回路:パルス変調(五極管LD2x4並列構成)受信機: 他励式超再生検波方式(発振-三極管LD1、外部検波-双二極管LG1)、低周波増幅6段構成(五極管RV12P2000 x4、五極管LV1、三極管LD2)修調回路: 発振周波数453KHz(発振RV12P2000、増幅LV1)、自動利得調整回路(RV12P2000 x2 ) 波形表示: 探索-Jスコープ(LB2)、方位角・仰角-Aスコープ(LB1)測定: 等感度方式電源: 回転式直流変圧器、入力28VFuG-202(B/C)補足 本機はドイツ空軍が1942年に導入した夜間戦闘機用接敵レーダーの1号機で、間もなくして改修型であるFuG-212(C-1)が導入された。両機は共に490MHz帯を使用し、構成も殆ど同一で、これらの接敵レーダーはLichtenstein(リヒテンシュターイン)と呼称された。 Lichtensteinを搭載したドイツ夜間戦闘機は地上レーダー局の誘導を受け、侵入する敵爆撃機の捕捉を効果的に行い、大きな損害を与えた。