先般近郊の骨董市に於いて、馴染みの業者より、陸軍の96式2号戊無線機・受信機箱及び、若干の旧軍関連ジャンクを入手した。骨董市に於いて旧軍関連製品を入手するのは久しぶりで、誠に幸いであった。 96式2号戊無線機は陸軍の装甲軌道車用の無線機材である。装甲軌道車とは鉄道作戦に使用する特殊戦闘車で、通常は装輪(鉄道車輪)により鉄道広軌線路上を走行するが、必要に応じ装軌(キャタピラ)に変更し、線路外を普通戦車と同様に走行する。装甲軌道車の、装輪より装軌、または、その逆装は機関動力で極めて短時間に転換することが出来、大戦時、各種軌道車が大陸や南方に投入され、鉄道設備の守備に活躍した。 さて、今回は96式2号戊無線機の受信機収容箱と併せ、若干の旧軍ジャンクを入手した。当該物品は錨マークの付いたUY-37A他の旧軍真空管、計器、陸軍型水晶発振子等であるが、この中に住友の小型三極管TA-1508が一本含まれており感激した。 TA-1508は戦中に開発された電波兵器用の真空管と考えられるが、以前に入手を逃した経緯があり、今般期せずして収蔵することが出来、誠に幸であった。本管は戦後も使用されたと考えられ、入手管には1950年の標記があった。96式2号戊無線機に関わる若干の補足 本機材は資料が少なく、構成各機の構造、回路構成については判然としない。日本無線史陸軍編によれば、96式2号戊無線機は電話主体の無線機材で、簡易な秘話装置を装備していた。この秘話装置は受信機と同一の外筐体に収容されていたと考えられ、受信機箱の蓋に添付されていた「受信機箱収入品目員数表」には、「二八号乙D型受信機(特殊装置)共」との表記がある。 96式2号戊無線機は特殊車両用のため生産台数は少なく、日本無線史には20機と記されている。 なお、当館は関連機材を所蔵していないが、2004年に本機の2号箱なる物を入手していた。96式2号戊無線機諸元用途: 装甲軌道車通信距離: 40Km運用周波数: 送信900-5,500KHz、受信140-15,000KHz送信機: 電信(A1)出力24W、電話(A3)出力12W、主発振・電力増幅方式、構成真空管UY-510B x2、UV-615、UX-250 x2受信機: スーパーへテロダイン方式、高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅1段、AVC機能付、構成真空管UY-37、UZ-78 x3、Ut-6A7、Ut-6B7電源装置: 回転式直流変圧器(入力12V)空中線: 車上逆L型、柱高2m、線条7m通話方式、普通電話、秘密電話(付加式簡単反倒式秘話装置使用)整備台数: 20機掲示資料補足 組写真@は今般入手した96式2号戊無線機の受信機収容箱である。中央下部が受信機及び秘話装置収容部である。 組写真Aは95式装甲軌道車である。車体下部に線路走行用の装輪が確認出来る。 写真Bは収容箱と併せ入手した旧軍関連ジャンクである。内容は錨マーク付き海軍ST管、エーコン管UN-955、TA-1508、陸軍型水晶発振子、陸軍携帯用電圧計、陸軍特殊集音器他である。 写真Cはエーコン管UN-955、TA-1508で、両管は共に元箱に収容されていた。