先般、帝国陸軍の用途不明VHFヘテロダイン周波数計を入手した。本器は双三極電池管30MC二本により構成され、構造は差し替え方式である。このため、周波数計部は運用周波数に応じ複数が整備され、使用目的に応じ選択され、電池を収容した外筐体に装置されたと考えられる。 本周波数計はコルピッツ発振兼検波回路、変調回路及び低周波増幅部により構成され、機能はヘテロダイン周波数計と、受信機試験用の信号発生器との兼用である。装置は発振周波数較正用の基準周波数発振回路を具えて居らず、分類としては簡易ヘテロダイン周波数計構成である。 発振同調蓄電器のバーニャダイアルが破損しているため、周波数を可変する事は出来ないが、デップメーターで測ると、ローターが1/5程抜けた位置の同調周波数は65MHzで、最大発振周波数は90MHz付近と考えられる。 さて、本器の用途が気になるが、陸軍が開発したVHF機材の運用周波数を勘案すると、大凡の対象機材は推測することが出来ると考えられる。 まず無線機材であるが、VHF帯を使用した陸軍の無線機には「94式6号無線機(25-45MHz)」、「操縦訓練無線機(30-60MHz)」、「飛4号無線機(43-50MHz)」他各種が有るが、何れの運用周波数も60MHz以下と低く、入手周波数計部の測定対象とはならない。また、この周波数帯の無線機には吸収形の周波数計が使用され、ヘテロダイン周波数計の使用は考慮されていなかったと考えられる。 上記により、当該周波数計は陸軍が開発したレーダー用と推察され、その対象には大戦前に開発されたドップラー式の「電波警戒機甲(45-75MHz)」、パルス式対空監視機材である「電波警戒機乙(68-80MHz)」、英軍の射撃管制レーダーG.L.(Gun Laying)を模倣して開発された対空射撃管制用「タチ3号(78MHz)」等が該当する。 本周波数計については、入手周波数計部以外の周波数構成は不明であるが、開発された陸軍の各種レーダーより推察し、その最大測定周波数は250MHz程度ではなかったかと推察される。また、当然の事として、この周波数帯では発振/検波管にはエーコン管が使用されたはずである。以上により、本周波数計は使用目的に応じ測定部を変更し、汎用の簡易周波数計兼試験用発振器として、陸軍のレーダーサイトに於いて使用さたと考えられる。掲示写真補足 組写真@は周波数計の外観で、必要に応じ差し替え使用する構造で有るとこが分かる。上部中央の円形部品は空中線接続部である。 写真Aは周波数計の前面で、左上部が壊れている周波数同調器、右が発振器と周波数計の機能換え器で、発振器として動作させると、併せ変調回路が動作する。同調器の下はフィラメント電圧調整器で、右は変調周波数調整器である。下段の左は地線端子、中央は電源スイッチで、右端は受話器端子である。 写真Bは周波数計内部で、配線は左側の発振回路構成管に集中している。右の30MCは双三極部の片側のみを使用し低周波増幅部を構成している。 写真Cはドップラー式の「電波警戒機甲」を構成する受信機で、高周波部の造りは今般入手した周波数計に類似している。