今般、帝国陸軍が1944年(昭和19年)の初頭に開発した夜間戦闘機用接敵レーダーである「タキ2号」を構成した送信機を二機種入手した。これまでに陸海軍に関わる夜間戦闘機用レーダーの現存機材が確認された事は無く、当館にとり、正に驚愕の大発見であった。 タキ2号は等感度測定式の接敵レーダーで、空中線装置、送信機及び受信機、波形表示を行う指示装置及び電源装置により構成されている。本機には原型の1型、大戦末期に配備が進められた2型及び、試作段階の3型があり、今般入手した送信機は1型用送信機の原型及び2型の送信機で、何れにも使用感は有るが、構成部品に欠品のない良品であった。 タキ2号1型の送信機には今般入手した原型とその改良型があり、改良型送信機で構成されたタキ2号1型はフイリッピンで米軍に鹵獲され、写真資料として残っている。 入手したタキ2号1型送信機(原型)の構造は誠に興味深く、発振回路は住友の双三極管TA-1506二本により構成されている。各双三極管はレッヘル線同調回路により独立したP.P.構成の自励発振回路を形成し、U字状出力コイルは上下に配置された両発振回路の出力を併せ取り出す構造である。回路構成から本機の構造は複雑で、このため、後に東芝が戦中に開発した極超短波用小型発振管SN-7(三極管)二本によるP.P.構成に改修されたと考えられる。 一方、タキ2号2型の送信機は、1型の改修型送信機(SN-7P.P.構成)にパルス変調回路を移設した構造である。入手した2型送信機は構成管が欠損しており、当館で変調部のUY-807A、HP-1及びソラを装着したが、残念ながら発振管SN-7は未所蔵で、完全な状態を再現するには至っていない。夜間戦闘機と接敵レーダー 通常迎撃用夜間戦闘機は陸地上空を飛行するが、この場合地上よりの強力な反射波に妨害され、最大測定可能範囲は飛行高度に限定される。つまり、高度3,000mで飛行する場合の測定範囲は前方3Kmで、5000mの場合は5Kmとなる。(別掲波形指示概念図-2参照) 先の大戦期に於ける爆撃機の実用最高飛行高度は10,000m程度で、接敵レーダーの最大運用範囲は約10Kmとなるが、夜間爆撃の飛行高度は5000m近辺が一般的であり、各国の接敵レーダーの性能もこれに合わせたものとなっている。このため、接敵レーダーの送信尖頭出力は数キロワットと、探索用レーダーと比べ非常に小さい。 これらの特長から、夜間戦闘機は自機の接敵レーダーで侵入する敵機を探索、捕捉することは困難であり、迎撃は地上のレーダーにより誘導を受け、侵入機に接近の後、装備レーダーにより捕捉を行う。迎撃を有効に行うには地上レーダー網、機上敵味方識別装置(IFF)、機上無線機及び機上接敵レーダーが有効に機能することが必要であるが、当時の我が国の状況は誠に不十分であり、このため、例え接敵レーダーが有効に機能しても、孤立した迎撃機での会敵は非常に困難であったと考えられる。 なお、タキ2号の運用については判然としないが、昭和19年に陸軍航空工廠に於いて、二式複式戦闘機「屠龍」の胴体上面にホ5(20mm機関砲)を上向砲として装備し、併せタキ2号を搭載した機体が10機整備されたとの記録がある。また、前述の如く、タキ2号1型(送信機改修型)がフイリッピンで米軍により鹵獲されており、少なくとも、前線への配備は確実である。タキ2号2型緒元用途: 夜間戦闘機接敵・射撃管制測定項目: 方位角・仰角・距離有効距離: 約5km周波数: 375MHz繰返周波数: 3,000Hzパルス幅: 1.5μs送信尖頭出力: 2Kw送信空中線: 3素子八木受信空中線: 3素子八木4基送信機: 発振SN-7 (P.P.) 変調方式: パルス変調、変調管UY-807A受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅無し、周波数混合(UN-955)、局部発振(UN-955)、中間周波増幅5段(MB-850A x5)、検波(MB-850A)、低周波増幅2段(MB-8502 x2)中間周波段帯域幅: 1.2MHz受信利得: 100db信号表示: Aスコープ方式(探索・測距用1基、照準用2基、各75mm SSF-75-G)測定方法: 等感度方式距離精度: 0.1Km方位角精度: 1-2゜電源: 直流回転式交流発電機、入力DC24V、出力3相100V(400Hz)重量: 120kg製造: 住友、約200台(1型・2型)掲示資料捕捉 組写真@は今般入手した送信機二機種で、左はタキ2号1型(原型)の初期型送信機で、右は2型を構成した送信機である。 写真Aは1型初期型送信機の内部である。発振回路は双三極管TA-1506で構成される自励発振器二基(各P.P.構成)の並列運用で、出力は両発振回路を併せ取り出す構成である。 写真Bはタキ2号2型を構成した送信機で、発振回路は三極管SN-7二本により構成される自励発振回路(P.P.構成)である。原型の送信機と比べ回路構成は非常に簡潔である。残念ながらSN-7は未装着である。 資料Cはタキ2号2型の構成機材で送信機は写真Bと同一構造であることが分かる。