タキ3号は多摩陸軍技術研究所駒場研究室(東京帝国大学航空研究所)で開発が進められた中型機用機材で、本機は1943年(昭和18年)に導入された大型機用哨戒レーダー「タキ1号」と比べ、非常に小型で軽量であった。しかし、研究は完了するも、実用性及び量産性に問題があり、結局導入は中止された。 タキ3号については資料が少なく、其の諸元についてはハッキリしないが、米国陸軍の調査資料「Japanese Army Radar」によると、運用周波数は75MHz帯と低く、送信機の発振回路は双三極管TA-1506八本により構成されていた。本資料によると、回路はTA-1506の三極部16個がリングを構成した構造で、これは緒戦にフイリッピンで鹵獲した米国陸軍の対空射撃管制レーダー「SCR-268」の送信機発振回路を模倣したものと考えられる。 「SCR-268」の発振回路は直熱式三極管VT-127十六本で構成される円環型で、構成管は直径40cmの円周状に配列されている。16本のVT-127は8基のレッヘル線式同調回路により結合されているが、発振回路はVT-127二本によるP.P構成の自励発振器8組をループ状に接続した構成で、出力は中央に配置したリング状コイルにより取り出される。 陸軍の電波兵器に係わる教科書「電波兵器仮教程(士官用)」では、本発振回路を「輪型接続多球回路」と表記し、「出力はRなる空中線結合線輪により取出さるるも米国の標定機について見るに、発振管は16個なるも調整最良好の際1本の場合の12倍程度なり。尚本式は真空管の均一性良好ならざる場合は調整極めて困難なり。」と記している。また、帝国海軍のレーダー開発に於いて中心的役割を担った伊藤庸二元海軍造兵大佐は、著書「レーダー」(興洋社)の中で「これら発振回路の振動形態と陽極多分割マグネトロンの発振原理はよく似ている」と述べている。タキ3号に係わる若干の補足 本機の運用周波数は75MHz帯と低く、小型、高利得の空中線が必要な機上用レーダーとしては問題があり、特に中型機用機材としては不適切であった。また、予備も含め多数が必要な送信管の調達は、時局を考慮すると困難であったと推察される。 1943年に導入された「タキ1号」は無難な設計で、動作も安定していた。このため、「実用性及び量産性」の問題によるタキ3号導入の中止は、航空部隊の運用に、特段の影響を及ぼさなかったものと考えられる 。掲示写真補足 掲示組写真@はタキ3号送信機の内部で、円周に配置された同調回路の上部に発振用双三極管TA-1506が複数個装置されている。(写真出典:国会図書館憲政資料室返還資料「Japanese Army Radar」) 写真Aは米国陸軍の対空射撃管制レーダーSCR-268で、タキ3号の送信機発振部は本機の発振部を模倣したものと考えられる。(写真出典: USNA) 写真Bは緒戦にフイリッピンで鹵獲され、「無線と実験」の表紙になったSCR-268の送信機発振部で、回路は三極管VT-127十六本により構成されている。 写真C、左はタキ3号の発振管TA-1506で、右はSCR-268の発振管VT-127Aである。 写真Dは館内に展示したタキ2号、タキ3号関連機材である。