この度、ウルツブルグを構成した測距用のゴニオメーター(手動位相可変器)を入手した。事務局員は遣ドイツ潜水艦により技術移転が図られ、帝国陸軍の射撃管制レーダー「タチ24号」として国産化もされた本機材が大好きで、先にその構成真空管(除くCRT・整流管・放電管)の収集を完了した経緯がある。 しかし、当然の事として、最も入手したいのはウルツブルグの構成機材であるが、これらについては時折小部品がドイツのebayに出品されることはあるが、事務局員が応札することは出来ない。また、欧州の蒐集家でこれらを積極的に手放す者はおらず、本機材の収集については八方ふさがりの状態である。 今般のゴニオメーターについては、幸いにもドイツの真空管販売業者がたまたま入手したとのことで、また、対価も極僅かで有り、面白半分で購入してみた。ウルツブルグは距離測定用として40km疎測定用の第2ゴニオメーター、5km精密測定用の第1ゴニオメーターを装備しているが、入手部品が其の何れであるのかは不明である。そもそも、本当にこのゴニオメーターがウルツブルグを構成していたのかも定かではない。 ところで、Wurzburgはドイツ空軍が1939年(昭和14年)に導入した対空射撃管制用レーダーで、本機はレーダー史にその名を留める傑作機である。Wurzburgは帝国陸海軍が共同して技術導入を行い、大戦末期になり、陸軍が電波標定機「タチ24号」として完成させた。Wurzburgの導入に関わる経緯は昭和56年(1981年)に「幻のレーダーウルツブルグ」(津田精一著・CQ出版)として出版され、本レーダーの存在が広く知られる事になった。 なお、本機(FuMG-62D)は等感度測定式空中線装置及び精密測距機能により距離、方位角、仰角の三諸元を測定するが、その測定精度は以下の様な物である。信号表示: 探索- Jスコープ方式、測距・方位角・仰角-各Aスコープ方式掃引幅: 0-40km測定距離: 40km測距精度: ±25-40m測角精度: ±1/8°-1/3°測高精度: ±1/8°-1/3°ゴニオメーターに関わる若干の補足(掲示概念図参照) ウルツブルグは60KHzの原周波数発振回路より基本同期周波数(繰返周波数)3,750Hz及び、精密測定用30KHzの正弦波を発生させる。同期信号3,750Hzをパルス化した際の最大標定距離は40kmで、また、30KHzHzをパルス化すると最大測定距離は5kmとなる。本機ではこの2周波数をパルス化した後混合し、標定距離40kmを8区分に分け、各5km内を精密に測定する。 ゴニオメーターは測距回路を構成する手動位相可変器であるが、距離測定用信号を発生させるため、3,750Hzの正弦波は第2ゴニオメーターへ、60KHzは第1ゴニオメーターに入力され、各ゴニオメーターより出力される位相可変式正弦波は、各器の操作により任意に変化する。 各ゴニオメーター出力はパルス化され混合されるが、両器は1:8のギャ機構を介し結合され、第1ゴニオメーターを8回転させると、第2ゴニオメーターが1回転する構造となっており、また、両器は同位相に設定されている。 この混合バルスを探索用表示管(Jスコープ)の格子回路に加圧すると、時間軸には1個の黒点信号として表示され、各ゴニオメーターの操作により任意に移動する。このため、事前にゴニオメーターの位相変化量と距離の関係を較正しておくと、測定対象とする反射波にゴニオメーターの操作により黒点を合致させる事により、其の距離を精密に測定することが出来る。しかし、実際の精密測定は別途装置された測距機の表示管(CRT)回路(Aスコープ)により、測定対象波を拡大して行う。 なお、黒点信号とは、CRTの時間軸に表示される本パルスが、その巾分発光を停止し、「黒点」の様に見える事に由来している。JスコープとAスコープ Jスコープは時間軸をCRTの円周に沿い360°走査する。本スコープは電磁偏向・静電収束式ブラウン管で、外部に水平・垂直偏向コイルが装置されている。40Km探索用の円走査用掃引信号として、位相が90°異なる3.75KHzの正弦波を発生させ、これを各偏向コイルに加圧すると、リサージュ波形の発生原理により、時間軸はCRTの内縁に沿い円形となって表示される。 一方、Aスコープ方式は水平信号及び垂直信号を、X軸、Y軸の直交座標として表示する。しかし、Jスコープでは極座標により表し、AスコープのX軸に相当する数値を角度で、Y軸に相当する信号電圧は中心からの距離として表示する。このため、反射波等の信号は、該当位置の半径が強度に従い外側に向け拡大表示される事になる。掲示資料補足 組写真@は今般入手したゴニオメーターである。廉価のため入手したが、本当にウルツブルグに装置されていたかは不明である。内部はゴニオメーター装置のため、軽量である。 写真Aはイタリアの蒐集家が所蔵するWurzburg FuMG-62D型である。背後のケース内に主要構成装置が収蔵され、右側に外部設置の測距機が置かれている。本体右側面に操縦席が設置され、この周辺に空中線操作ハンドル、探索用Jスコープ、仰角、方位角測定用Aスコープが装置されている。 資料BはWurzburg D型の概念図である。本機の空中線は送受信兼用で、サポネと呼称されるT分岐構造の空中線共用器がそれを可能にしている。この共用器及び受信機のフロントエンド、送信機は一つのケースに収容され、本体背後の収容ケース最上部に設置されている。