「陸軍航空隊用無線機材」 『SCR-183/283無線装置』 戦前より大戦前期に掛け米国陸軍航空隊が戦闘機に装備した無線電話装置は短波帯機材のSCR-183/283であった。本機材を構成する送信機は主発振、電力増幅方式で送信出力は約3W、変調方式は陽極変調である。運用周波数は2,500-7,700KHzで、この帯域を差替式コイル5本でカバーした。 受信機は当時としては一般的であったストレート方式であり、構成は高周波増幅4段、検波、低周波増幅1段で、再生機能は備えていない。受信周波数は201-398KHz、2,500−7,850KHz で、この帯域を差替式コイル4本で運用する。本受信機は電信(A1)復調機能を備えておらず、受信電波形式はA2(変調電信)及びA3(電話)である。 装置の運用操作は遠隔操作器によって行うが、受信機には外部同調器が蛇腹ケーブルにより接続され、周波数を遠隔で調整することが出来る。また、運用はブレークイン・プレストーク方式で、送話器はカーボン式である。 なお、SCR-183と283の相違は電源入力電圧で、SCR-183が12-14V、283が24-28.5Vである。SCR-183/283諸元用途: 航空機用通達距離: 電話50Km送信周波数: 2,500−7,700KHz(コイル5本差替式)受信周波数: 201-398KHz、2,500−7,850KHz(コイル4本差替式)送信電波形式: 送信機-A1(電信)、A2(変調電信)、A3(電話)受信機電波形式: A1(電信)、A3(電話)送信出力: 3W送信機: 主発振・電力増幅方式、自励発振VT-25A、電力増幅VT-25A、陽極変調VT-52 x2(並列使用)受信機: ストレート方式(再生機能無)、高周波増幅4段VT-49 x4、検波VT-37(二極管接続)、低周波増幅1段VT-38電源: 直流回転式発電機(送受信機兼用)、入力12/28V空中線: ワイヤー固定式『SCR-274-N無線装置』 1940年、米国海軍は統合的な航空機用無線装置であるARA / ATAシステムを導入した。本通信装置は受信周波数190-9,100KHz、送信周波数2,100-9,100KHzを各5機の独立した送受信機で運用するものであったが、陸軍はARA / ATAを手本に殆ど同一構造のSCR-274-Nを開発し、1941年に導入した。1943年になると海軍は、ARA / ATAを再設計し、新たに500-2,100KHzを3機でカバーする送信機及び、VHF(100-156MHz)の4チャンネル(CH)電話装置加えたARC-5を導入する。開発の経緯からARA / ATA、SCR-274N、ARC-5の性能、構造は非常に類似したもので、これら装置はコマンドセットと総称された。 SCR-274は周波数の異なる4種類の受信機、送信機により構成され、各機の選択装備により、送信は 3,000-9,100KHz、受信は190-1,500KHz及び3,000-9,100KHzの周波数帯で運用を行うことが出来る。各送信機、各受信機の外部構造は同一で、受信機は直流回転式発電機を装備しているが、送信機は変調機・電源を共用する構成である。 SCR-274-Nは運用目的に合わせ、必要な周波数帯の送信機、受信機を専用ラックに装備するが、最大装備数は各4機である。受信機は電源を内蔵しているため必要に応じ、各機を同時に動作さる事が出来るが、送信機は変調機・電源が共用のため、運用は各機の切替使用である。 本装置の送受信機は周波数可変方式のため、各機の周波数設定は運用に先だち行われる。運用操作は遠隔操作器によって行うが、受信機には外部同調器が蛇腹ケーブルにより接続され、周波数を遠隔で調整することが出来る。また、装置の運用はブレークイン・ブレストーク方式である。 なお、ARA / ATAはSCR-274-Nと構成が相似しているため、概説は本稿で代用する。SCR-274-N諸元用途: 航空機用送信周波数: 3,000-9,100KHz(機材選択装備受信周波数: 190-1,500KHz、3,000-9,100KHz(機材選択装備)電波形式: A1(電信)、A2(変調電信)、A3(電話)送信出力: 50W(A1・A2)、15W(A3)送信機: 主発振・電力増幅方式、自励発振VT-137、電力増幅VT-136 x2(並列使用)、周波数較正用水晶発振VT-138変調機: 第二格子変調VT-136、側音・A2用低周波発振VT-135受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段VT-131、周波数変換VT-132、第一中間周波増幅VT-131、第二中間周波増幅VT-131、検波二極三極複合管VT-33(二極部)、ビート発振VT-33(三極部)、低周波増幅1段VT-134送信機電源: 直流回転式発電機入力28V(変調機装備)受信機電源: 直流回転式発電機入力28V(各受信機装備)空中線: ワイヤー固定式『SCR-522無線装置』 1942年、英空軍は4CHのVHF(100-124MHz)機材TR-1143を導入する。米陸軍航空隊は欧州の戦いでRAFと通信の整合を図るため、TR-1143を参考に、ほぼ同一仕様のVHF無線電話機SCR-522を開発した。本機は送受信機が水晶制御方式の4CH機材であるが、周波数の逓倍方式や構成真空管はTR-1143とは異なっている。TR1143に比べSCR-522の完成度は高く、本機は後にTR-5043としてRAFに採用された。SCR-522-A諸元用途: 対空、対地電話通信通達距離: 高度3,000mで対地約220Km周波数: 100-124MHz(任意の4周波数)電波形式: A3(電話)送信出力: 7W送信機: 水晶発振6G6G、第一周波数逓倍12A6、第二周波数逓倍832(P.P.構成)、電力増幅832(P.P.構成)、音声増幅6SS7、陽極変調12A6 x2(P.P.構成)受信機: シングルスーパーヘテロダイン方式、高周波増幅9003、周波数混合9003、局部水晶発振双三極管12AH7-GT(1/2)、第一周波数逓倍9002、第二周波数逓倍9003、中間周波増幅一段12SG7、二段12SG7、三段12SG7、検波二極五極管12C8(二極部)、低周波増幅一段12C8(五極部)、二段12J5-GT、雑音抑制双二極管12H6(1/2)、AVC遅延12H6(1/2)、スケルチ12AH7-GT(三極部)電源: 回転式直流変圧器、入力28V空中線: 垂直ブレード型 なお、以下のURLに陸軍機材に関わる概説を掲示した。http://kenyamamoto.com/yokohamaradiomuseum/2012aug05.04.html「海軍航空隊用無線機材」 『RU/GF無線装置』 戦前期に海軍戦闘機が装備した無線電話機は短波帯機材のRU(受信機)/GF(送信機)であった。本機の原型は1932年に導入されたが、当初送信出力は数Wで、その後改訂が重ねられ後期型(RU-16/GF-11)では15Wにまで増大した。 送信機は主発振・電力増幅方式で、変調は電力増幅管の第三格子変調、送話器はカーボン式である。送信周波数は3,000-4,525KHzで、この帯域を差替式コイル4本で運用する。 受信機は戦前期に多く見られたストレート方式で、構成は高周波増幅3段、検波、低周波増幅1段で、再生機能は備えていない。受信周波数は海軍機材のため航法用周波数帯を含み195-13,575KHzと広域であり、これを差替式コイル9本で受信する。 本機は再生検波方式ではないため、オートダイン検波は行えない。このため、電信(A1)の復調はヘテロダイン方式により行う構成で、主同調器に連動し、ビート発生用周波数を発振する局部発振回路(BFO)を備えている。 RU/GFは海軍航空部隊用無線装置のため、受信機は方向探知用の枠型空中線接続端子を備えている。また、構成受信コイルには長波用と短波用コイルを同一ケース内に収め、切替使用が出来る構造のものが整備されている。 本機の運用操作は遠隔操作器によって行うが、受信機には外部同調器が蛇腹ケーブルにより接続され、周波数を遠隔で調整することが出来る。また、本装置の運用はブレークイン・プレストーク方式である。RU16/GF11(RU17/GF-12 )諸元用途: 航空機用通達距離: 電話70Km送信周波数: 3,000-4,525KHz(コイル4本差替式)受信周波数: 195-13,575KHz(コイル9本差替式)電波形式: A1(電信)、A2(変調電信)、A3(電話)送信出力10-15W送信機: 主発振・電力増幅方式、自励発振89、電力増幅837 x2(p.p.構成)、変調89(第三格子変調)受信機: ストレート方式(BFO機能付)、高周波増幅3段78 x3、AGC増幅77、検波77、ビート発振(BFO)38233(1/2)、低周波増幅1段38233(1/2)電源: 直流回転式発電機(送受信機兼用)、入力12/28V空中線: ワイヤー固定式『ARC-5無線装置』 本無線装置はARA / ATAを再設計したもので、1943年に導入された。装置は7種類の受信機、12種類の送信機により構成され、各機の選択装備により、送信は 500-9,100KHz及び100-156MHz、受信は190-9,100KHz及び100-156MHzの周波数範囲で運用を行うことが出来る。開発の経緯から、本装置は陸軍のSCR-274-Nに類似しており、送受信機の設置や操作手順は同一である。 ARC-5は海軍航空部隊用無線装置のため、装置には航法支援用として長波帯の送信機も含まれており、また、同帯域の受信機は方向探知用の枠型空中線接続端子を備えている。 ARC-5を構成する機材の構造、回路構成はSCR-274-Nと類似しているが、必ずしも各部は共通していない。最も大きく異なるのは変調方式で、SCR-274-Nが第二格子変調であるのに対し、本装置は陽極変調方式を採用している。ARC-5にはVHF帯電話機材が含まれており、このため、変調特性に配慮が払われたものと考えられる。ARC-5長波・短波装置諸元用途: 航空機用送信周波数: 500-9,100KHz(選択装備)受信周波数: 190-9,100KHz(選択装備)電波形式: A1(電信)、A2(変調電信)、A3(電話)送信出力: 50W(A1・A2)、15W(A3)送信機: 主発振・電力増幅方式、自励発振1626、電力増幅1625 x2(並列使用)、周波数較正用水晶発振1629変調機: 陽極変調1625 x2(P.P.構成)、側音・A2用低周波発振12J5-GT受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段12SK7、周波数変換12K8、第一中間周波増幅12SK7、第二中間周波増幅12SF7、検波12SR7(二極部)、BFO-12SR7(三極部)、低周波増幅1段12A6送信機電源: 直流回転式発電機入力28V(変調機装備)受信機電源: 直流回転式発電機入力28V(各受信機装備)空中線: ワイヤー固定式ARC-5VHF装置(T-23・R-28)諸元運用周波数: 100-156MHz(4CH)電波形式: A2(変調電信)、A3(電話)送信出力: 7W送信機: 水晶発振1625、第一周波数逓倍1625、第二周波数逓倍832A、電力増幅832A変調機・電源: 共用受信機: シングルスーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段717A、周波数変換717A、第一中間周波増幅12SH7、第二中間周波増幅12SH7、検波双三極管12SL7-GT(1/2)、AVC・スケルチ検波12SL7-GT(1/2)、スケルチ増幅12SL7-GT(1/2)、低周波増幅1段12SL7-GT(1/2)、低周波増幅二段12A6-GT、局発用水晶発振・逓倍12SH7、第二周波数逓倍717A、第三周波数逓倍717A中間周波数: 6.9MHz空中線: 垂直型 なお、以下のURLに海軍機材の概要を掲示した。http://kenyamamoto.com/yokohamaradiomuseum/2012aug05.05.html掲示写真補足 緒戦に日本陸軍がフィリピンで捕獲した米陸軍戦闘機カーチスP-40に搭載されたSCR-274-N。写真出典: 航空朝日・第三巻九号・昭和17年9月発行