昨年末、収集家との物々交換により、表記の機上用風車発電機(プロペラ付)の元箱入りを入手した。当館は本風車発電機と同一の発電機を所蔵していたが、駆動用プロペラについては陸軍の94式飛2号無線機用のみで、合体は出来るが、その状態で展示をする訳にもいかず困っていた。 本「風車発電機」は機上に設置しプロペラの回転により発電を行う構成で、出力電圧は12V、定格電力は150Wである。当初機上用無線機の電源は風車発電機により賄われていたが、構成発電機は低圧、中圧、高圧等、装置に必要な全ての電圧を発生し供給した。 このため、12V単一出力型発電機の用途については当惑するが、火花式送信機の電源、搭載蓄電池の充電補助、信号灯、電熱飛行服等が考えられる。無線黎明期に於いて、機上用火花式送信機の電源に風車発電機を使用するのは海外では一般的であった。しかし、帝国海軍航空部隊に本式送信機の歴史はない。 入手発電機に付属していたプロペラの全長は36cmで、中央部に「回転数3500/分、風速50-100m/秒、風車出力400W」との表記がある。プロペラにはスプリングによりテンションが掛けられており、風速に従い回転数を一定に保つ構造となっている。この機構はネジによる調整式で、装備航空機の巡航速度に合わせ調整を行ったと考えられる。 ところで、当館が以前より所蔵していた陸軍の94式飛2号無線機用のプロペラであるが、こちらの全長は41cmで、「回転数3500/分、風速40-85m/秒、風車出力550W」との表記がある。 94式飛2号無線機は初期型機材のため電源装置は非常に大型で、当然消費電力も大きく、風車出力が550Wと大きいのは納得ができる。飛2号無線機用風車発電機の回路図を併せ掲示したが、出力電圧は低圧が9V、高圧は750Vで有る。 搭載無線装置の電源に風車発電機が使用された期間はさほど長くはないが、陸海軍共に1936年(昭和11年)頃までに導入した機材には本式の電源が使用されていた。陸軍では94式、海軍では96式機材導入型の時代であるが、当然の事として、時間を置かず、電源装置は直流回転式変圧器に装換された。 興味深いのは、これら風車発電機を使用した初期型無線機材の地上整備である。94式飛2号無線機の場合は、風車発電機の低圧発生用発電機に蓄電池より12Vを加圧し、これを駆動用電動機として動作させ、高圧用発電機を回転させた。この場合、発電機のプロペラは取り外し、無線装置の低圧は蓄電池より供給した。本構成により、電源が風車発電機の時代には、当然の事として、地上待機中の航空機は搭載無線電信機を動作させる事が出来なかったった。