横浜旧軍無線通信資料館掲示板


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    画像タイトル:img20210225105143.jpg -(209 KB)

    「ムキナヌ第610号」型受信機、諜報部員用? 名前: 事務局員 [2021/02/25,10:51:43] No.9340
     先般、英国でMilitary Wireless Museumを運営するBen Nock氏より、「ムキナヌ第610号」と表記される正体不明の受信機に関わる写真の提供があった。

     この受信機の構造は当館が写真資料を所蔵し、戦後米国陸軍通信隊が作成した「CAPTURED ENEMY EQUIPMENT」の中で「1568型受信機」として記載される小型再生式受信機に相似しており、誠に驚いた。何故ならば、1568型受信機は帝国陸軍が諜報部員の為に製作したと伝えられているからである。

    ムキナヌ型受信機概観
     提供を受けた写真には本受信機の木製収容ケースも含まれており、その前面には「ムキナヌ第610号」(以下ムキナヌ型と表記)と表示されていた。本機は品川電機製の直熱式五極MT管B-03三本で構成される検波、低周波増幅二段構成の再生・オートダイン検波式受信機である。運用周波数は受信機の側面に添付された置換表により、3-16MHzの4バンドである事が分かるが、構成コイルは同一ボビンに巻かれ、各バンド共用である。

     各部の詳細は不明であるが、検波回路に於ける再生帰還量の調整は、交感コイルに装置した蓄電器の容量可変方式と考えられる。同調ダイアル機構はバーニア式であるが、再生調整用可変蓄電器も同一の減速ダイアルを使用している。

     低周波増幅部は2段増幅方式であるが、本機は添付の予備品表により塞流線輪と低周波変成器を使用している事が分かっている。塞流線輪と低周波変成の使用箇所は変則的であるが、一例として、変成器は検波菅の陽極負荷・出力回路を構成し、低周波増幅各段はCR結合方式で、塞流線輪は低周波出力段の負荷用とも考えられる。

     驚いた事に、本受信機は「特殊小型受話器」と称されるクリスタル型レシーバを使用しており、圧電素子はロッセル塩(酒石酸カリウムナトリウム)である。このため、出力回路はC結合によるハイインピーダンス構成と考えられ、出力管の陽極負荷には塞流線輪の使用が推測される。

     本受信機の電源は乾電池構成で、心線用低圧は1.5V、高圧は45-90Vと考えられる。心線回路には3Ωのレオスタットが装置され、帰還調整用可変蓄電器と併せ、再生・オートダイン検波の調整に使用されると考えられる。電源は小型の木製スイッチBOXを介し、接続線に付加された小型5ピンソケットを、受信機本体右上部に装置された受端子に接続する。このソケットは受話器端子との兼用で、上部には受話器接続用の2ピン端子が装置されている。

    ・空中線装置
     本受信機は本製収容ケースの外枠を利用した枠型空中線を装備している。運用はバナナチップ構造の空中線出力端子に受信機を接続し行なうが、この場合、空中線(受信機)を立てて回転させると、方向探知機と同様に、8字指向特性(2最大感度点)を得ることができる。

    1568型受信機(追加資料参照)
     本機に関わる写真及び資料は、20年程前に米国の収集家で当時Signal Corps Museum を運営していた故William L. Howard氏より入手した。

     1568型受信機はムキナヌ型と同様に品川電機製の直熱式五極管3本で構成される再生式(オートダイン)式受信機で、低周波増幅部も2段構成である。しかし、空中線は単線接続構成で、ムキナヌ型とは異なる。運用周波数は不明であるが4バンド構成で、同調コイルは各バンドの共用であり、主同調機構はバーニア式である。

     検波回路の詳細は不明であるが、再生状態の誘起は可変式蓄電器による帰還量調整方式である。心線電圧調整用のレオスタットを備えており、合わせ再生状態の調整に使用したと考えられる。写真から、検波管の陽極回路にはRFCチョークが装置されていると考えられる。低周波増幅部は2段構成であるが、塞流線輪や低周波変成器は装置しておらず、段間はCR結合方式と考えられる。

     受信機と合わせ写る受話器は特殊な構造ではあるが、ムキナヌ型受信機が装備したクリスタル型レシーバーと比べだいぶ大型である。構造から、本受話器は小型に纏めたマグネチック型と推察され、負荷抵抗を兼ね出力管の陽極回路に直接装置された可能性がある。

     上記の如くムキナヌ型と1568型の構成は類似しており、また、写真でも分かる様に両機の製造方法は相似し、同一の施設で製造された事を推察させる。ムキナヌ型受信機は1568型と比べその構造は洗練され、完成度も高く、この為、1568型受信機の改良型とも考えられる。

    製造元と用途
     ムキナヌ型及び1568型受信機の開発元、用途は不明である。しかし、その昔、当館が1568型受信機の資料をWilliam L. Howard氏より入手した際、本機は陸軍の研究所が諜報部員のために製作したと伝えられた。もしこれが事実であれば、開発元は「陸軍技術本部第9研究所」(元陸軍科学研究所登戸出張所)第一科(電波兵器、気球爆弾、無線機、風船爆弾、細菌兵器、牛疫ウイルスの研究開発)と言う事になる。

     1568型受信機は「CAPTURED ENEMY EQUIPMENT」で「Japanese Receiver 1568」として紹介されており、本資料の中に日本側の開発元に関わる記述があると考えられる。しかし、残念ながら当館が入手できた資料はその一部で、該当部分に関わる記述は無い。本資料が入手出来れば、1568型及びムキナヌ型受信機の出自は明らかになると考えられる。

    掲示写真補足
     掲示は今般Ben Nock氏が入手したムキナヌ型受信機及びそのアクセサリー類である。組写真@は収容箱に収めた状態の構成装置で、左が受信機本体、右が受信機に接続する電源接線である。接線は右端の、電源スイッチを備えた小型木箱を介し受信機に接続される。小型木箱にはパイロットランプが装置されている。

     写真Aは収容箱より取りだした木枠で、周囲には巻線が施され、枠型空中線を構成している。写真Bは受信機本体で、前面左端のツマミがバンドスイッチ、右端のツマミが心線電圧調整用のレオスタックである。上面はパーニアダイアルで構成される可変蓄電器2個で、左が同調用、右が再生調整用である。

     写真Cは受信機内部で、同調用、再生調整用可変蓄電器は同一容量である。構成真空管B-03は右より、検波管、低周波増幅第1段管、第2段管である。中央のトランスは低周波チョーク、右端は低周波変成器である。写真Dはクリスタルレシーバーで、圧電素子はロッセル塩である。既に潮解のためか、動作しないとの事である。




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