先に、米国ロードアイランド州所在の博物館New England Wireless & Steam Museumより、帝國陸海軍無線機材の型式、用途確定に関わる問い合わせがあり、その経緯については既に掲示した。 この折、当該博物館が航空機用の風車発電機型火花式送信機SCR-73を所蔵している事を知り、火花送信機好の事務局員は誠に驚き、感激した。本送信機は米国陸軍通信隊が1918年(大正7年)に開発したもので、この時期は第一次大戦の末期である。本送信機の形状は先般当館が入手した帝国海軍の風車発電機に相似するも、装置は遥かに大きい。 詳細については不明であるが、SCR-73は大型の風車発電機に組み込んだ火花式送信機で、運用周波数は550-1,500kHz、送信出力は200Wである。面白いことに、B電波を発生させる放電器(スパークギャップ)には、風車により放電間隔でスパーク用歯車を回転させるロータリー式が採用されており、それも、資料写真によると角の数が違う複数が用意されている。 放電用高圧発生装置については、当時機上で使用された一般的な火花式送信機は、高圧の発生にブザー式誘導コイを使用し、一次電源は機上電源であった。誘導コイルの一次側には直流電圧が加圧され、これをブザーザーにより断続させ、発生する交流もどきの電圧で、二次側巻線に高圧を発生させスパークギャップで放電させた。 しかし、本式は非効率で故障も多く、SCR-73ではこの時代に一般的であった交流電源による火花式送信機と同様に、風車により交流電力を発生させ、変圧器により放電用の高圧を発生させたと考えられる。ロータリー式スパークギャップ 当初火花式送信機の高圧放電によるB電波の発生は、二電極間の放電による単純火花式であった。しかし、復調されるB電波は雑音で、通信用信号としては適切な音調ではなかった。この為、B電波をより快適な通信音に変調するためロータリー式スパークギャップが開発された。 本器は放電間隔の間に対向した構造の角を持つ歯車、または、類似の電極を装置し、これを回転させる。結果、回転する角の各対向位置で放電が発生し、B電波は変調され、より良好な復調音となる。本式では放電器の回転数、歯車を構成する角の数で変調音が確定される為、変調音の違いにより受信電波を選別する事が出来た。 SCR-73送信機には角の数が異なる放電用歯車が用意されている。これは上記の様に、各機の同時運用に際し発生する混信を、復調音の違いにより選別、選択する仕様と考えられる。受信装置 この時代は真空管の黎明期であったが、未だ高周波の検波は難しく、引き続き受信機には鉱石検波式が使用されていた。鉱石式受信機は出力が小さく、また、探り式鉱石検波器は振動に弱く不安定で、騒音、振動の激しい機上での使用は困難であった。しかし、第一線に於ける機上よりの通信連絡は着弾観測や、敵陣の動きであり、機上よりの一方向通信であっても、その情報は誠に有用であった。 地上(塹壕)での受信には鉱石式が使用されたが、この時期になると簡単な真空管式増幅器が導入され、受信状況は大幅に改善された。間も無くして、真空管による有効な検波回路が次々と開発され、鉱石式受信機の時代は終了する。掲示資料補足 写真@はNew England Wireless & Steam Museumが所蔵する風力発電型火花式送信機SCR-73で、その構造は先般入手し、下項に掲示した帝国海軍の150W風力式発電機と比べ、大分大きい。 写真AはSCR-73の内部で、左端が発電機部、右が回転式ロータリーギャップ、その右が高圧発生用トランス、右端が同調部と考えられる。火花放電間隔を構成する歯車型ローターが二枚付属している。 写真Bは米国陸軍通信隊の機上用火花式送信機BC-15Aである。前面の銅板製螺旋金物は同調コイルで、運用周波数に従い、空中線他の接続位置を変更する。本機の一次電源は機上電源の12Vである。右側が巻取式の曳行式空中線である。 掲示写真Cは米国陸軍通信隊の鉱石式受信機BC-14Aで、BC-15Aの対向としても使用された。装置前面、左上部のブザーは鉱石の動作確認用で、右端のガラス管は探り式の鉱石検波器である。