事務局員は1960年代の初頭にSANWA(三和無線測器研究所)より発売されたAM送信機TM-407及び、対の受信機NR-408に思い入れがあり、機会があれば是非入手したいと考えていた。そんな中、先般幸にも程度の良いNR-408を「ヤフオク!」で入手することが出来、今般当館の技術調査員である安齊穗積氏により修復された。 NR-408はハムバンド専用のダブルスーバー(第一局部発振可変方式)で、当時は誠に高額な国際電気のメカニカルフィルタを装備している。このため、価格も半端が無く、完成品が74,000円、セミキットが50,000円と、この時代の小アマチュア無線機としては驚くほどに高額で、事務局員は当然の事としても、殆どのアマチュア無線家には手が出せなかった。このため、今日でも本受信機を入手したいと考える収集家は多い。 NR-408にはメーカー製とセミキットの二種類があるが、幸にも入手はメーカー製で程度も良く、指したる欠品も無かった。しかし、14MHz帯の局部発振回路を構成する温度補償型蓄電器が何故か、マイカ3本を絡めた物に変更されていた。恐らく原品が不良となり、一般マイカの組み合わせにより所要容量を作り上げ、装置したと考えられる。 NR-408はアマチュア無線バンド専用の受信機で「暖気運転」後の安定度はすこぶる良く、ダイアル目盛により最小5KHzの周波数を読み取ることが出来る。しかし、14MHz帯は該当値の温度保証コンデンサーが未入手で、根本的修復には至って居らず、周波数が安定するのに3時間ほどを必要とする。 この受信機は高級機にも拘わらず、不思議なことに周波数の較正用発振器や同調ダイアルの補正機能を備えていない。14MHz帯を除く他バンドの周波数安定度は非常によく、このため、当時設計者は、較正、補正機能は必要無いと考えたのであろうか。それにしても、ダイアル目盛で周波数の補正が出来ない受信機は、その不一致が目に付き落ち着かない。 さて、本受信機の修復にあたり最も気になっていたのが、装備されている国際電気のメカニカルフィルタである。本来はAM用の「MF-455-15K」が装置されていたはずであるが、入手受信機にはSSB用の「MF-455-10K」が取り付けられていた。以前の所有者が変更したものと考えられる。 案の定、メカフィルは経年変化により完全に動作不良の状態であった。安齊氏により分解修理が行われたが、内部は振動子を固定するスポンジが経年変化によりバラバラと成り、振動子に固着し、また、両端の接線が緑青により断線していた。 言うまでも無く、メカフィルは振動子の機械的共振を利用した帯域通過濾波器で、入力側には電気振動を機械振動に換える変換器が,出力側には機械振動を電気振動に戻す変換器が装置され、この間に機械式振動子が数珠状に装置されている。 修理に際し特に問題になったのが出入口の変換器で、当該メカフィルは初期型のためか変換は圧電式で、素子にチタン酸バリウムを使用している。素子の裏表には金属が蒸着され、ここに接線を再接続するが、通常の半田付では温度が高く、被膜があっという間に蒸発し再生不能となる。このため、導電性接着剤等を試したが、最終的に安齊氏は低温半田により原状を回復した。 MF-455-10K系のメカフィルは、その後変換素子が圧電式より磁歪式に変更されたとのことであるが、コイルを使用した磁歪式であれは、修復は非常に容易と考えられる。メカニカルフィルタと旧軍機材 ところで、メカフィルの圧電式変換素子は、大戦中に開発された帝国陸海軍のレーダー自己監査装置「レーボック」を思い起こさせる。この装置は伝統的圧電素子である水晶片に石英の棒を低温半田で接着した遅延回路で、受信機の中間周波部に組み込まれた。 回込みにより受信された自レーダー波は水晶片により機械振動に変換され、石英の先端より反射して戻り、再び水晶片により電気信号に変換され出力される。このため、飛行機や艦船等よりの反射波がない場合でも、あたかも数十キロ離れた場所に標的があるが如く疑似反射波として表示され、之を基に機器の調整をおこなった。 また、圧電素子より磁歪式への転換は、アクティブソナーや測深儀に於ける超音波発生技術の発達と共通している。当初帝国陸海軍は超音波の発生に水晶片(ランジユバン型振動子)を使用していたが、その後磁歪式に変更した。掲示写真補足 組写真@は今般入手し、修復の成ったNR-408である。写真Aは受信機の内部で程度は良好である。写真Bはメカニカルフィルタの内部で、この時代のメカニカルは何れも似たような状態である。しかし、清掃をすれば殆どが原状を回復する。写真Cは先に入手したスター製品と併せ趣味の部屋に置いたNR-408である。