先般、「ヤフオク!」で陸軍の師団通信隊用機材である94式3号乙無線機を構成する遠隔運用操作(遠操)装置「4号A型操縦機」を入手した。本操縦機は外ケースのみで肝心の中身が欠落しているが、当館(横浜旧軍無線通信資料館)は本機が未収集で、情けない状態ではあるが、完品入手までの暫定措置としての落札である。無線装置「94式3号乙無線機」 本装置は師団司令部と隷下の各部隊司令部間の通信を司る師団通信隊用機材で、野戦用36号型通信機及び、本機の遠操装置である「師団通信隊用副受信機」により構成され、今般入手した4号A型操縦機はこの「師団通信隊用副受信機」の一部である。 元来36号型通信機は陸軍の中距離通信装置である「94式3号甲無線機」の主無線機で、94式3号乙無線機は本機材に遠操装置「師団通信隊用副受信機」を付加した構成である。このため、導入後間もなくして、94式3号乙無線機は装置名自体が「師団通信隊用副受信機」に変更され、以後整備、教育は94式3号甲無線機の一環として行われた。遠隔運用とは 野戦に於ける軍や師団司令部では隷下の各部隊に対する通信の円滑化を図るため、有線、無線の通信部門を一カ所に集合させ、本所は合同通信所(合通)と呼ばれた。この合通は一昔前の電報電話局と同一機能で、作戦電報(暗号化済み)の受付や、送受信、受信電報の配達等を行った。 無線通信の場合、多数の送受信機を同一の場所で運用すると相互干渉が発生し、通信が困難となる。このため、各対地向けの受信装置のみを合通の受信所に設置し、各送信装置(送信所)は500-1000m離れた任意の場所に配置し、この間を遠操機により結び、受信所より送信機の遠隔運用を行なった。 94式3号乙無線機の場合、この遠隔運用に必要な装置を構成したのが「師団通信隊用副受信機」である。本装置は36号型通信機を構成する受信機と同一構成の44号型受信機、送信機を遠操する「4号A型操縦機」及び、対向して36号型通信機を構成する送信機の電鍵回路を制御する「4号A型中継機」により構成されている。44号型受信機が必要な理由は、36号型通信機は送信機と受信機を分離して運用する事が出来ない為である。遠隔運用の実際 合同通信所(受信所)には44号型受信機及び4号A型操縦機が、送信所には4号A型中継機及び94式3号乙無線機(36号型通信機)が設置され、この間は93式軽被覆線等により結ばれた。 操縦機・接続線・中継機で構成される遠操装置の基本回路は電鍵・電池・継電器から成るループ回路であり、これに対向呼び出し用ブザー回路及び電話機能が付加されている。操縦機に接続した電鍵を叩くと回路に電流が流れ、中継機の継電器が動作し、接点を介し接続された36号型送信機の電鍵回路が制御され、電波が発射される。 装置設営後、受信所の通信担当は、送信機用発電機の起動・停止の指示はブザーにより、打ち合わせは電話機能を介し行い、操縦機に接続した電鍵で送信機を遠隔運用した。94式3号乙無線機緒元用途: 師団通信隊通信距離:50km運用周波数: 400-2,500kHz電波型式: 電信(A1)送信機: 出力10W、水晶又は主発振UY-510B送信機電源: 29号型手廻発電機主受信機(36号型): スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段、中間周波増幅1段、再生式検波、低周波増幅2段、(UF-134、UZ-135、UF-134、UF-109A、UZ-133D)主無線機空中線: 逆L型、柱高7m、線条20m、地線: 20m被覆線副受信機:44号型受信機(36号型受信機と同一構成)主・副受信機電源: 乾電池B18型(22.5V)x4、平角3号(1.5V)、C-129(3V)副受信機空中線: 逆L型、柱高2m、線条15m、地線: 10m被覆線2条遠隔操作機: 4号A型操縦機・4号A型中継器運搬: 駄馬2頭開設撤収: 兵6名にて10-20分整備数: 不明掲示写真補足 組写真@は今般入手した「94式3号乙無線機」の遠隔運用装置を構成する操縦機である。残念ながらケースのみで、中身は空である。 写真Aは遠隔運用装置「師団通信隊用副受信機」の構成機材収容木箱で、漸く収容位置に空箱ではあるが操縦機が収まった。操縦機の上部は44号型受信機、右端は4号A型中継機である。 写真Bは遠隔運用装置の構成機材で、左は4号A型操縦機、中央が93式軽被覆線、右端が4号A型中継機である。 写真Cは94式3号乙無線機の主通信機と同一の36号型通信機で、上部が送信機、中段が受信機、下段が受信機の電池ケースである。