先般、帝国陸海軍レーダーに関わる技術史の研究家である餘家清氏が、「霜田光一の海軍戦時研究」を自費出版され、その経緯について本板で周知をした。 本書は義父で東京大学名誉教授である霜田光一先生(文化功労者)が、戦中に関与された帝国海軍に於けるレーダー開発と研究を、先生の所蔵する一次資料、証言を中心に纏められたものである。 内容は、我が国に於けるレーダー開発、霜田先生によるマイクロ波用鉱石検波器の開発、米軍レーダーの調査、大戦末期に於ける最新式マイクロ波レーダーの開発等多岐に渡る。 ところで、今般、本書にも網羅されたB-29搭載の高高度爆撃用レーダーAPQ-13の構成部が、越谷の倉庫で発見され、地元のミニコミ紙「ちいき新聞」に掲載されるなどし、この時期ならではの話題となった。 「ちいき新聞」の記事によると、越谷市でそば店を営む笹井厚志氏は知人宅の倉庫で、知人いわく「B-29に関係があるとも聞いた」とされる鉄塊を発見し、これを入手した。この鉄塊は強力な磁石で、調べるとB-29に搭載されていたレーダーに関係した物ではないかと考えられた。 幸いにも、この話は餘家氏に持ち込まれ、鉄塊はB-29に搭載されていた高高度爆撃用レーダーAPQ-13の、発振用マグネトロン730Aの励磁用永久磁石の一部であることが確認された。この際、餘家氏へのアクセスは、当館がHPに掲載した「霜田光一論文」が契機になったとの事で、誠に幸いである。霜田光一論文URLhttp://www.yokohamaradiomuseum.com/shimodawebsite/shimoda.html さて、1944年(昭和年19年)11月21日、B29の編隊61機が長崎県の大村地区を空襲したが、その内の1機が撃墜され、火を吹かずに有明海に墜ちた。この機体は直ちに回収され、分断されて海軍の大村航空廠に運びこまれた。搭載されていたレーダーは12月の初旬に多摩陸軍技術研究所霞分室に於いて、陸海軍合同での分解調査が行われたが、霜田光一先生は学生の身分でありながら、この調査に招聘された。 本調査により、当該機材はWestern Electric社製のPPI式爆撃用レーダーAN/APQ13で、運用波長は3cmである事が判明した。霜田先生はこの調査内容をスケッチと共に記録し、「霜田光一の海軍戦時研究」にはその全が収められている。このため、本書に掲載されたAPQ-13に関わるスケッチの中には、該当の鉄塊と同一構造のマグネトロン730A励磁用の永久磁石も描かれており、その素性が確定される事になった。 上記により、発見された鉄塊がマグネトロン730Aの励磁用磁石の一部である事は判明したが、肝心の当該APQ-13を搭載したB-29が、何処に墜落した機体であるのかが判然としない。「ちいき新聞」によると、越谷にB-29が墜落した記録は確認されておらず、鉄塊の出所は依然として不明である。ついては、この地域に於けるB-29の墜落に関し、情報をお持ちの方は、ご提供を是非宜しくお願いしたい。 なお、霜田光一先生は本年で101歳に成られたが、誠にご壮健で、充実した日々を過ごされておられる。APQ-13諸元用途: 航法・高高度爆撃周波数: 9,375MHz(波長3.2cm)繰返周波数: 1,350Hzパルス幅: 0.5μs空中線: スキャナ式パラボラ型空中線走査: 探索13rpm、照準50rpm送信機: 送信管マグネトロン730A尖頭出力: 30-50Kw変調回路:衝撃波変調方式受信機: ダブルスーパーヘテロダイン方式、第一周波数変換シリコン鉱石検波、局部発振(反射型クライストロン)、第一中間周波増幅2段、第二中間周波増幅4段、低周波増幅3段中間周波数: 第一中間周波数70MHz、第二中間周波25MHzPPI式画像表示範囲: 360°高度測定: Aスコープ方式方位測定精度: 爆撃照準時±1°最大表示範囲: 200マイル電源: 1次直流26V、2次115V/400Hz交流式重量: 約160Kg