先般、米国の収集家より、米国陸軍の鹵獲兵器調査機関であるEEIS(Enemy Equipment Intelligence Service) が作成した、帝国陸海軍無線機材に関わる報告書の提供を受け、この中に陸軍の「94式2号丁無線機」が含まれていた。 本機は機械化部隊の指揮官車用として開発されたが、資料が少なく、編纂作業を後回しにしていた経緯があり、誠に有りがたい資料提供であった。 日本無線史第9巻・陸軍編によると、「94式2号丁無線機」は試作機を含め6機が製造されたが、その後不整備(調達中止)になったとの事である。しかし、本機はビルマで英軍に鹵獲されている事等から、実際には相当数が整備され、配備されたと推察される。 ところで、「94式2号丁無線機」は指揮官車用のため、野戦機材には珍しく、電話主体で秘話装置を装備している。帝国陸海軍の秘話装置に関わる資料は少なく、このため、参考資料として、本無線機の秘話装置及び、所蔵する秘話式「特4号電話機」について、その概要及び資料を掲示した。94式2号丁無線機秘話装置 本装置は受信機の上部に設置された簡単な単側波帯反転式で、回路はまさにSSBジェネレーターそのものである(掲示回路図参照)。搬送波発振、増幅は三極管UY-76で、平衡変調回路は亜酸化銅整流器4本で構成されている。 送話器よりの音声信号は約4,500KHzの搬送波により平衡変調され、発生する両側波帯の内、2,000-4,000KHzの下側波帯をローパスフィルターで取り出し、双三極管UZ-79で二段増幅を行う。この反転した下側波帯を秘話音声として使用し、復調は同一回路により行う。 対向と搬送周波数を一致させるため、秘話装置の前面には、発振回路を構成する手動可変式蓄電器が装置されている。 なお、本機材で秘話機能を使用する場合は、電話モードに於いて、秘話装置の選択スイッチを「通常」より「特殊」に転換する。94式2号丁無線機諸元用途: 乗用自動車装備(主用途電話通信)、秘話装置付通信距離: 60km送信機運用周波数: 900-5,500kHz電波形式: 電信(A1)、電話(A3)出力: 25W(電信)、12W(電話)装置構成: 水晶又は主発振UY-510B、電力増幅UV-203A、音声増幅UY-510B、陽極変調UX-250二本(P.P.構成)空中線装置(送受兼用): 車体装備逆L型、線長5m受信機電波形式: 電信(A1)、電話(A3)受信周波数: 140-15,000kHz装置構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段(UZ-78)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅1段(UZ-78)、中間周波増幅2段(UZ-78)、検波(Ut-6B7二極部)、低周波増幅(Ut-6B7五極部) 、BFO(UY-37)電源: 直流回転式変圧器(入力12V、出力250V)送受信共用秘話装置: 単側波帯反転式電源装置: 直流回転式変圧器送信機高圧用(入力12V、出力500V)、同バイアス用(出力-200V)、同受信機用(出力250V)1次電源: 12V70AH蓄電池3個、500W充電機装備自動車: 93式6輪乗用車陸軍「特4号電話機」 本電話機は軍上層部用で、秘話式であるが、磁石式、共電式交換機及び、ダイアルを付加し自動交換機にも接続が可能である。 特4号電話機は送話器よりの音声信号を、2,200kHzの低域濾波器を通し第1信号とする。また、同一信号を4,600kHzで平衡変調を行い、発生する下側波帯を2,400-4,250kHzの帯域濾波器で取り出し、この反転変調信号を第2信号とする。 発生させた2信号は、モーター駆動のスイッチにより約100msecで切替え、増幅の後秘話音声信号とする。受信は同一方法により秘話信号を再生するが、電話は双方向同時通話のため、秘話用の側波帯発生回路は94式2号丁無線機の秘話装置とは異なり、上下2系統となっている。掲示資料補足写真@は94式2号丁無線機を構成する送信機と受信機で、受信機の上部に秘話装置が装着されている。写真Aは秘話装置の内部である。資料Bは秘話装置の回路構成図である。写真Cは秘話式「特4号電話機」である。