先般、RCプロポの研究家である廣瀬玄一氏より、火花式送信機(B電波)とコヒーラ式受信機で構成されるRCセット「PALCON YK-1」を、等価交換にて入手させて頂いた。 本装置は日東化学教材株式会社が1963年(昭和38年)頃に販売したと考えられるが、その主用途は、左右のキャタピラを個別のモーターで駆動するプラモデルのプルドーザーや戦車である。 「PALCON YK-1」は真空管が発明される以前の技術を応用した無線操縦装置で、その動作原理は増田屋斉藤貿易が1955年(昭和30年)に発売した「ラジコンバス」と同一である。 帝国海軍は1903年(明治36年)に火花式送信機及びコヒーラ式受信機で構成された「36式無線電信機」を開発し、本機は日露戦役に於いて、日本海海戦の勝利に大きく貢献した。 このため、当館(横浜旧軍無線通信資料館)は資料として、火花式送信機やコヒーラの収集を進め、その一環として「ラジコンバス」も所蔵している。しかし、小生は最近まで「PALCON YK-1」の存在を知らず、net上で其れを発見した際は驚愕した。 この種のRCセットが販売されていた事は、誠の驚きではあるが、構造からして、動作は必ずしも安定せず、購入者は調整や操縦に苦労したと考えられる。販売台数も僅かであったと推察されるが、実際に使用された方の話しを聞いてみたいものである。「PALCON YK-1」装置概要 本RCセットは火花式送信機、コヒーラ検波器式受信機により構成されている。受信機には円盤構造の出力制御器(セレクター)が装置され、エスケープメナト等の外部制御装置を使用すること無く、走行駆動用のモーター1個、又は2個を制御する。取扱説明書によると、本機の操縦可能距離は15m程であるが、入手機材は経年によりコヒーラが劣化し、可動範囲は数十cmであった。☆送信機 本機は高圧発生用トランスの一次巻線に直流6V(単2四本)を加圧し、これをブザーにより断続し、二次側巻線に高圧を発生させるバイブレター式誘導コイル構造である。出力側には放電によりB電波を発生させるスパークギャップが装置され、放電間隔からして、発生電圧は500-800V程度である。送信機側面のボタンを押すとブザーが起動し、パルス性のB電波が発射されるが、ケースは密封され、「ラジコンバス」の送信機とは異なり、放電状態を確認する事は出来ない。☆受信機 本機はコヒーラ検波器、電池、継電器より成るB電波検出用ループ回路、及び走行用モーターを制御する制御器(セレクター)により構成されている。肝心のコヒーラはガラス管に金属粉を封印した構造で、スタンドの上部に、片側のみを固定した状態で装置されている。★B電波検出用ループ回路 コヒーラの金属粉表面を覆う皮膜が、B電波のパルスで破壊され導通すると、ループ回路に電流が流れ、継電器が動作する。この継電器はダイナミックスピーカーのボイスコイルと同一構造で、永久磁石の中に可動コイルが装置され、回路に電流が流れると上方に飛び出し、上部のスイッチを動作させる。このスイッチは、セレクターの駆動モーター制御用である。 コヒーラは一度導通するとその状態を維持するため、これでは次の動作を制御する事が出来ない。このため、コヒーラに物理的ショックを与え、導通を解除する必要がある。この解除装置はデコヒーラと呼ばれ、本機では車輌の走行用モーターを制御するセレクターと一体構造に成っている。コヒーラが導通し、継電器の動作によりセレクター駆動用のモーターが回転すると、ギャ機構を介しハンマー構造のデコヒーラが、一定時間後にコヒーラの管を叩く構造である。この動作によりコヒーラの導通は解除され、ループ回路は断と成り、セレクターは停止する。◎コヒーラ補足 本器の動作については諸説があるが、一般的には以下の様に説明されている。「内包された金属粉は自然又は人工的に形成され、高い電気抵抗を持つ薄い酸化膜、水酸化膜等の金属化合物膜に覆われている。しかし、高周波が加圧されると接触部分に電圧が集中し、結果被膜が破壊され、下地の金属同士が接合して導通と状態となる。」★セレクター 本装置は円盤構造の回転式スイッチで、シーケンシャル構成により、5段階でスイッチ回路に接続された各走行用モーターを制御する。◎動作補足 コヒーラが導通すると、継電器の動作によりセレクター駆動用のモーターが動作し、スイッチ盤が回転する。スイッチ盤のスイッチ回路は5分割された構造で、送信機のボタン操作1回で、1段ずつ進み、切替回路に従い、接続された走行用モーターを動作させる。 制御する走行モーターは1個又は2個で、2個の動作はブルドーザーや戦車等の、各キャタピラにモーターを夫々1個を装備した場合である。制御は5段階で、動作例は以下である。例・モーター1個 送信機のボタン操作各1回により、@前進、A前進、B停止、C後進(モーター逆回転)、D停止。方向転換機能無し。例・モーター2個 @前進(両キャタピラ駆動用モーター2個動作)、A右折(右側モーター停止)、B左折(左側モーター停止)、C後進(両モーター逆転)、D停止。