先般、地1号無線機を構成した受信機を入手した。この受信機は形状や構造から、当館が所蔵する「地1号無線機・受信機」(初期型)よりその製造時期は古い。このため、本機は「地1号無線機」を構成した受信機の、原型ではないかと考えられる。 入手受信機の程度は良好で、電源入力端子を除き、原状を維持している。しかし、前面パネルや収容ケースは戦後の整備作業により、濃い灰色に塗り替えられている。塗色より、おそらく本機は戦後、NHKで中継用受信機として使用されていたと推察される。地1号無線機 本無線装置は第四次制式制定作業(1939年より漸次実施)で兵器化された陸軍航空部隊の遠距離用通信機材で、第3次制式作業(1934年)で兵器化され、その後航空部隊用としては不整備となった94式対空1号無線機の実質的後継機であり、対空通信距離は電信で1,000km以上である。 地1号無線機を構成する受信機は高周波増幅2段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段のスーパーヘテロダイン方式で、開発元は安立電気である。安立電気は本受信機の開発に際し、米国ナショナル社製のHRO型受信機を参考にした。このため、構造はHROに類似するが、フロントエンドの配置、同調機構や各部の造りは大きく異なっており、似て非なる受信機として完成した。地1号無線機原型諸元用途: 対空、対地通信通信距離: 1,000km以上「送信装置」運用周波数: 2,500-13,350kHz、電波型式: 電信(A1)、変調電信(A2),電話(A3)送信出力: 電信1kW、変調波400W構成: 水晶又は主発振UY-511B、緩衝増幅UV-1089B、電力増幅UV-815 x2P.P.(プッシュプル)構成、音声増幅1段Ut-6L7G、音声増幅2段UZ-42、音声増幅制御KY-84、格子変調UV-845電源装置: 8馬力発動発電機空中線装置: 逆L型又はダブレット型、柱高12m、水平長35m、地線は地網4枚「受信装置」運用周波数: 140-13,350kHz構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段、帯域濾波器・AVC機能付空中線装置: 逆L型「地1号無線機・受信機」(初期型)装置概要 本機は高周波増幅2段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段のスーパーヘテロダイン方式で、140-13,350kHzの周波数帯を差替え式線輪8本で受信する。電源は外部設置式である。 空中線入力回路は単線式で、強電界による飽和を避けるため、可変式減衰抵抗器を具えている。フロントエンドは五極管UZ-78による高周波増幅回路2段、五極管UZ-77による周波数混合回路(第一検波)及びUZ-77による局部発振回路により構成されている。 第一検波は陽極検波方式で、また、局部発振はハートレー発振回路の変形であり、出力を周波数混合管の第3格子に注入している。各段の同調回路は4連式可変蓄電器により構成され、金属製同調機構に直接結合された構成である。高周波増幅段、第1検波段には同調手動補正用として、小容量の可変式蓄電器が付加されている。 同調ダイアル機構は金属製のウオームギヤで構成され、同調ノブで100度目盛りのドラムを回転させ、周波数は差替式コイルに添付された周波数置換表により読み取る。同調ノブは小型のエボナイト製でフライホイール効果は無く、また、副尺を具えていない。エボナイト製ノブの採用は同調蓄電器が直接金属製ダイアル機構に接続されているため、ボディイフェクトを防ぐ意匠と考えられる。 中間周波増幅回路はUZ-78による2段増幅方式で、中間周波数は受信周波数140-1,500kHzが60kHz(1号IFT)、1,500-13,350kHzが400kHz(2号IFT)で、中間周波数の変更はプラグイン式IFTユニットを受信機の上部から差替えて行う。本受信機の手動利得調整は、中間周波増幅管のカソード電圧可変方式である。 中間周波増幅2段出力側と検波回路の間には400kHzの水晶片1個で構成されるブリッジ平衡式の帯域濾波器が装置され、可変式蓄電器により帯域幅を250〜8,000Hz程度可変する事が出来る。しかし、この濾波器機能は2号IFT使用時にのみ動作する。 第二検波は双二極・五極複合管Ut-6B7の二極部で行う整流検波方式である。電信復調用BFO回路はUZ-77によるハートレー発振回路で、出力をUt-6B7の二極部に注入している。BFOコイルはIFTと同様に60kHz及び400kHz用の二種で構成され、中間周波数の変更に合わせ差替えを行う。低周波増幅部はUt-6B7の五極部及びUZ-77による2段増幅構成で、出力インピーダンスは2KΩである。 本受信機はAVC機能を備えており、検波回路で発生させたAVC電圧を高周波増幅1段、2段、中間周波増幅1段、2段を構成する各管の第一格子に加圧している。AV機能の接・段は電信・電話切替器により行い、電話モードの場合にのみ動作する。 本受信機の手動利得調整は中間周波増幅管の陰極電圧を可変方式のみであり、AVC動作時に低周波出力信号が過大となる場合は、空中線入力回路の可変式減衰抵抗器により入力信号強度を低減させる。