この度、ドイツ海軍の艦艇用レーダーSEETAKT(ゼータクト)を構成した送信機の発振部を、ドイツの収集家より入手した。 先般、当館(横浜旧軍無線通信資料館)はドイツ空軍の機上用マイクロ波レーダー探知機「FuMB 23」を構成した誘電体空中線素子を入手したが、之に続き、海軍のレーダー関連機材を収集出来た事は、誠に幸いである。「SEETAKT」 本機はドイツのGEMA社が1938年(昭和13年)頃に開発した海上警戒用レーダーで、運用周波数は368-390MHzである。初期型である「FuMO 22」の送信機はGEMA社製の三極管TS-1二本によるP.P.構成で尖頭出力は1.5kW、測定は最大感度方式であり、方位角や距離の精密測定機能は具えていなかった。 FuMO 22」は大戦初期に大西洋やインド洋における通商破壊作戦で活躍しポケット戦艦、Graf Spee(グラフ・シュペー)に搭載されたが、本艦は1939年(昭和14年)12月13日に英国艦隊との交戦により損傷し、中立国ウルグアイのモンテビデオ港に退避したが、12月17日に港外で自沈した。 SEETAKTの送信機は導入間もなくして同社の三極管TS-6二本のP.P.構成に改修され、尖頭出力は8kWに増大し、以降本レーダーには各種の改良が施された。 米国海軍のアーカイブスには、大戦後米国が接収した重巡洋艦Prinz Eugen(プリンツ・オイゲン)に装備されたSEETAKT「FuMO 26」の写真が残されている。 これらの写真より判断して、本機の構成はGEMA社が開発した地上設置の対空監視レーダー「FREYA」(フライヤ)と運用周波数、空中線装置、送信出力を除き、殆ど変わるところが無く、等感度測定方式による精密方位角測定機能及び精密測距機能を具えている。入手発振部 今般入手の発振部はSEETAKTの初期型で、構成は三極管TS-1、TS-1aの二本によるP.P.構成の自励発振器であり、尖頭出力は1.5kWと考えられる。本発振部は筐体への差込式で、装置はステアタイト板二枚と銀メッキを施した合金製の部品により構成されている。 発振管TS-1及びTS-1aを装置した二枚のステアタイト板は、四隅の金属棒を介し背面が対向した構造で設置されている。その中間にレッヘル線式の陽極及び格子同調回路が配置され、出力側コイルは筐体側に装置される構成である。 構成管TS-1及びTS-1aは同等管ではあるが、TS-1aはTS-1に対向させると、電極が鏡面対象配置となる構造である。 各発振管は線條回路に半固定式蓄電器を装備した同調回路(トラップ回路)を具えているが、同調コイルはU形状の合金板で、タイト板に作った薄い溝に填め込んだ構造である。 以上の如く、本発振器は構成管も含め、その設計は誠に合理的で、また、製造も見事で、GEMA社の技術の高さを示している。SEETAKT(FuMO 26)普及型諸元用途: 水上警戒搭載艦: 戦艦、巡洋艦周波数: 368-390MHz繰返周波数: 500Hzパルス幅: 2-3μs尖頭出力: 8kW送信空中線: 半波長ダイボール12列2段(水平配列)送信機: 発振管TS-6 x2(P.P.構成 )変調方式: パルス変調受信空中線: 半波長ダイボール12列2段(水平配列)受信機: ダブルスーパーヘテロダイン方式中間周波数: 15/7MHz測定方法: 等感度度方式信号表示: Aスコープ方式測定距離: 20-25Km測距精度: ±50m測角精度: ±0.5°一次電源: 艦内交流電源