先般、米国の収集家より、氏が最近入手した「1568型受信機」として知られる正体不明の受信機について、情報提供の依頼があった。幸いにも依頼文には本受信機の写真と共に回路図が添付されており、当館(横浜旧軍無線通信資料館)は漸く「1568型受信機」の細部構成を知る事が出来た。 小生はその昔、米国のフロリダでOrdnance Technical Intelligence Museumを運営していた故William L. Howard(Bill)氏より本受信機に関わる数枚の写真と、米国陸軍通信隊が作成した報告書「CAPTURED ENEMY EQUIPMENT」の提供を受けた事がある。 今般問い合わせを受けた受信機は、構成や各部の傷より、Billより写真提供を受けた機材と同一である事は間違い無く、所蔵者の交代があった事が覗える。. 「CAPTURED ENEMY EQUIPMENT」は本受信機を「Japanese Receiver 1568」として紹介しているが、残念ながら当館が入手した資料はその一部で、内容の全ては把握していない。しかし、構造から用途は特殊工作員用と表記されていたと考えられ、BillのHPでは本受信機をスパイ用と表記していた。 これが事実であれば、1568型の開発元は「陸軍技術本部第9研究所」(元陸軍科学研究所登戸出張所)第一科(電波兵器、気球爆弾、無線機、風船爆弾、細菌兵器、牛疫ウイルスの研究開発)と言う事になるが、残念ながら当館は、それを裏付ける資料を持ち合わせていない。 本件に関わり、当館は先方に手持ちの資料及び推測される製造元、本人が興味を持つ品川電機製電池管の資料を提供した。しかし、これらに特段新しい情報は含まれて居らず、役に立ったかは不明である。1568型受信機について 本受信機は品川電機製のMT型直熱式五極管B-03(1T4相当)三本で構成されるストレート式受信機で、製造は大戦後期と考えられる。構成は再生(オートダイン)式検波、低周波増幅2段方式で、運用周波数は1.8〜10MHzであり、この周波数帯を各バンド共通の同調コイルを切替え4バンドで受信し、同調機構はバーニア式である。 検波回路の再生誘起方式は可変式蓄電器による陽極回路の帰還量調整方式で、検波管の陽極負荷回路には17Hのチョークが装置されている。また、再生調整補助及び電源スイッチを兼ね、線條回路には電圧調整用のレオスタット(5Ω)が装置されている。 低周波増幅部はB-03による2段構成であるが、段間はCR結合で、出力回路は17Hのチョーク負荷によるハイインピーダンス構成である。また、低周波増幅管にバイアス電圧を加圧する構成とは成っていない。