当館(横浜旧軍無線通信資料館)は比較参考資料として、大戦時に於ける英米独の代表的な無線機材の収集も行っている。参考資料のため対象とする機材は限定的であるが、其れにしても未入手の物は多くある。 その中の一つがドイツ陸軍の野戦用送信機で、特に小生が入手したいのは送信出力5Wの5W.S.(5 Watt Sender)である。この送信機は1930年代の前半に導入された汎用の小出力短波送信機であるが、現存機が少なく、また、独特の外観構造から人気もあり、中々入手が困難である。 併せ、最近の円安により、その対価も大きくなり、当館の予算では対応が難しい状況となりつつある。このため、所蔵する機材との交換により「5W.S.」の入手を図ることを計画し、ドイツ軍無線機材のFB「WWU German Signals and Communications Equipment」に投稿を行った。 今回当館が提供するのはドイツ陸軍の野戦用携帯式無線電話機「Kleinfunksprechr.d(Kl.Fu.Spr.d)」である。本機は1938年頃に導入された歩兵用の携帯式無線電話機で、運用周波数は32-38MHzのVHF帯である。Kl.Fu.Spr.dは「Dorette」の愛称で呼ばれ、欧州の収集家には人気の機材である。 この「Dorette」 は帝国陸軍の94式6号無線機や、米軍のBC-222等に類似した簡易無線電話機であるが、装置は周波数の安定、変調特性、電源の消費に配慮した設計で、また、受信部にレフレックス回路を使用するなどして、非常に小型である。 当館が提示した「Dorette」は無線機本体、電池ケース、送話器、受話器及び空中線で構成された一式で、オリジナルの木箱に収容されている。構成各装置も当然オリジナルであるが、特に電池箱は誠に希少で、所蔵する蒐集家は希である。 小生の提示する「Dorette」が「5W.S.」に釣り合うのかは受け手次第であるが、期待を込め、連絡を待っている。5W.S.諸元用途: 野戦用通信距離:60km(電信)、18km(電話)送信周波数: 送信950-3,150kHz(4バンド)電波形式: 電信(A1),電話(A3)送信機: 出力5W送信構成:発振2RS241、電力増幅2RS241、格子直接変調電源装置: 12V回転式直流変圧器、ペダル式発電機空中線: 単線展開式Kl.Fu.Spr.d(Dorette)緒元用途: 歩兵用通信距離: 2-4km周波数: 32-38MHz電波形式: 電話(A3)送信出力: 0.2W送信構成: 主発振DDD25(双三極管1/2)、電力増幅RL1P2(五極管)、陽極変調DDD25(1/2)受信構成: 高周波増幅1段RL1P2、超再生検波DDD25(1/2)、低周波増幅1段(レフレックス/高周波増幅管兼用)、低周波増幅2段(兼変調回路)DDD25(1/2)電源: 乾電池、高圧150V、低圧1.4V空中線:垂直型1.65m、4mダブレット(整備品)運搬: 兵員一名にて携行