先般、久しぶりに「ヤフオク!」で、帝国海軍の航空機用無線機に関連した機材を入手した。該当物品は、三座・多座航空機に搭載された「96式空3号無線電信機」の受信機用電源装置である。 この電源は振動式直流変圧器であるが、構成は非同期式で、バイブレター回路は直交変換のみを行い、交流出力は双二極管KY-84で整流する。ちなみに、入力は12V、出力は135Vである。 ところで、当館(横浜旧軍無線通信資料館)は本電源を既に1台所蔵している。しかし、病的な収集癖を持つ小生は、気に入った商品がそこにあれば、それを我慢、無視することができない。 このため、不必要と分かっていても応札、入手をし、意味のない出費を繰り返すことになる。この“病”より回復するのは、果たしていつのことであろうか・・・・・。96式空3号無線電信機(96式空3号)補足 本機は、海軍航空技術廠(空技廠)電気部が1936年(昭和11年)に開発した三座・多座航空機用の無線電信機であり、海軍の中・大型機のほぼすべてに搭載された。 1941年(昭和16年)12月8日の真珠湾攻撃に際して、襲撃部隊の総指揮官であった淵田美津雄中佐の乗機・九七式艦上攻撃機から打電された、奇襲成功を伝える「トラトラトラ」の電文は、本機により発報された。 96式空3号は、二段重ねにされた送信機および受信機、電源装置、空中線装置等により構成されている。 送信機は、水晶発振/主発振・第1増幅(長波発振/短波増幅)・電力増幅方式で、運用周波数は長波帯が300〜500kHz、短波帯が5,000〜10,000kHzである。電波形式は電信(A1)専用で、送信出力は約70Wである。 受信機は艦艇用機材である92式特受信機と同一構成で、長波帯はストレート方式、短波帯は長波受信部に周波数変換部を付加したスーパーヘテロダイン方式である。運用周波数は送信機と同一で、長波帯が300〜500kHz、短波帯が5,000〜10,000kHzである。96式空3号無線電信機の改修 大戦中期に作戦地域が南方に拡大すると、夜間帯における短波(5,000〜10,000kHz)の伝搬不良が顕著となり、大きな問題となった。 本現象は、電離層伝搬における夜間の最高使用周波数(MUF)が、海軍航空部隊で使用する下限周波数5,000kHzを下回ることに起因しており、空技廠による周波数選定に誤りがあったことを示している。 この事態を解消するため、空技廠は急遽、既設の96式空2号〜4号無線電信機に対し、2,500〜5,000kHzの中波帯を付加する改修を決定し、実施した。このため、96式空3号には、原型と中波帯を付加した改1型の二機種が存在する。96式空3号無線電信機原型諸元用途: 3座、多座航空機用通信距離: 長波350km、短波1,500km送信周波数: 長波300〜500kHz、短波5,000〜10,000kHz受信周波数: 長波300〜500kHz、短波5,000〜10,000kHz電波形式: A1(電信)送信機入力:150W送信機構成: 水晶/主発振UX-47A(短波帯)、第一増幅(短波帯)・水晶/主発振(長波帯)UX-865E、電力増幅UV-816D受信機構成長波帯: ストレート方式、高周波増幅2段、オートダイン検波、低周波増幅2段(2-V-2構成)短波帯: スーパーヘテロダイン方式、長波受信部に高周波増幅1段付周波数変換部付加 (高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段構成)電源装置: 風車発電機、回転式直流変圧器(送信機)・振動式直流変圧器(受信機)空中線装置: 短波帯固定式、長波帯垂下式、地線機体接地