横浜旧軍無線通信資料館掲示板


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    「安中電機製作所・製品目録」とチッカー検波器 名前: 事務局員 [2025/10/23,11:52:22] No.9586
     今般、米国の収集家 Brian Harrison 氏より、安中電機製作所(現アンリツグループ)が1920年(大正9年)に作成した「製品目録」(PDF)の提供を受けた。大元の出典は米国のSOWP (Society of Wireless Pioneers)である。

     本カタログは時代を反映し、簡単火花式・瞬滅火花式送信機、高周波発電機、鉱石式受信機、さらに黎明期の真空管式送受信機を網羅しているが、その中に「チッカー検波器」が含まれており、誠に驚かされた。本検波器は鉱石検波式受信機に付加して、不衰滅電波(無変調搬送波)の復調に使用する。

    火花式送信機
     帝国海軍は1903年(明治36年)、実用的な簡単火花式送信機とコヒーラ検波式受信機によって36式無線電信機を開発し、日露戦争の勝利に貢献した。1913年(大正2年)になると、旧式となった簡単火花式送信機は瞬滅火花式に改造され、元年式送信機として制定された。

     瞬滅火花式とは、火花の放電間隔を0.3m以下にすると火花抵抗がほぼ無限大となる放電特性を利用したものである。これにより、簡単火花式における一次回路・二次回路の密結合による二重周波の発生が抑制され、二次回路共振の単一電波が発射されるため、電波効率が高い。また、使用電圧が低くなるため、放電による騒音が著しく軽減される利点があった。

     一方、この時期にはコヒーラ検波式受信機はすでに過去のものとなり、受信機は複合同調回路を備えた鉱石検波式が主流であった。

    不衰滅電波式送信機の発明
    ・電弧式
     1900年(明治33年)、イギリスの物理学者ダッデル(William Duddel)により、従来の瞬滅火花式とは異なり、不衰滅電波を発生する電弧式送信機が考案された。

     本機はアーク放電器の一種で、密閉容器内に水素ガスあるいはアルコール蒸気を充填し、これに強力な磁場を与えて内部の陽極・陰極間で電弧を発生させ、不衰滅高周波を得る方式である。さらに、電極に同調回路を付加することで任意の不衰滅周波数を得ることができた。

     第一次世界大戦中、米国艦艇は電弧式送信機を多数装備し、その有効性は各国の注目を集めた。帝国海軍も導入を決定したが、特許を有する米国フェデラル・テレグラフ社の使用料は法外に高額であった。このため1918年(大正7年)、特許に抵触しない構造で国産化が図られ、開発された一連の送信機は7年式として制式化された。

    ・高周波発電機
     同時期、アメリカGE社のアレクサンダーソン(E. F. W. Alexanderson)が50kHz・1kW出力の高周波発電機を開発した。帝国海軍も陸上固定局用送信機としてこの高周波発電機に注目し、1914年(大正3年)に10kHz・2kW出力の発電機を米国から購入して研究を開始した。

     1917年(大正6年)、海軍造兵廠電気部は鉄心の磁力飽和によって発生する奇数倍高調波に同調する周波数変換器を発明した。これにより、高周波発電機で発生した10kHzを効率的に30kHzへ変換することが可能となり、同年10月にはこの装置を用いて出力100kW・30kHzの送信機を完成、佐世保軍港に設置した。その後、各種の類型高周波発電機が製造され、陸上電信所への設置が進められた。

    チッカー式受信機の開発
     電弧式送信機も高周波発電機も、発振波は無変調搬送波(不衰滅波)である。このため、従来の鉱石式受信機では復調ができなかった。そこで、不衰滅波の復調には、火花式信号と混合検波する簡易なヘテロダイン方式や、受信した不衰滅波を可聴周波数で変調する方式等が考案された。

     実用化されたのは後者の変調方式であり、これは「チッカー式受信機」と呼ばれた。本受信機は、鉱石検波器と直列にブザーで振動する白金接点を組み込み、その高速断続によって不衰滅波を変調し、これを鉱石検波器で検波し、可聴音として復調する方式である。

     しかし、間もなくして三極真空管を用いたオートダイン検波式受信機が普及し、「チッカー式受信機」の使用は極めて短期間で終了した。

    「チッカー検波器」
     当館(横浜旧軍無線通信資料館)は資料により、チッカー式受信機の構成と動作については把握していた。しかし、その実物を確認したことはく、今回提供いただいた「安中電機製作所・製品目録」により、初めてその具体的な構造を知ることができた。

     掲載されたチッカー検波器の写真は不鮮明で細部は不明であるが、木製ケース内部に振動発生用ブザーが装備され、上部に不衰滅波を断続して変調する振動接点が取り付けられている。本器は付加装置として設計されており、不衰滅信号を受信する際には既設鉱石式受信機の検波器前段に挿入して使用する。




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