先般「報告515資料館」館長の中村泰三氏が、スイス人の Ryo Dieterle 氏および自動車・内燃機関修復家の内和雅仁氏を伴い、当館(横浜旧軍無線通信資料館)に来訪された。 中村氏は旧軍航空機の研究家・修復家として知られ、当FBでもこれまでに何度か紹介したことがある。 Ryo Dieterle 氏は航空機や自動車の修復を趣味としており、これまでにすでに5台の車両を修復している。その中には1970年代のカローラも含まれており、驚かされた。 内和氏は自動車整備会社を経営する傍ら、希少車輌やエンジンの修復を行っている。とりわけ、氏はダグラス DC-3 の発動機 P&W R-1830(星型14気筒レシプロエンジン)を修復したことで知られている。 このエンジンは、かつて ANA が所蔵していた DC-3(JA5019)の左発動機であり、修復後は見事に稼働している。運転の様子は YouTube に多数UPされているが、その迫力は圧倒的である。エンジン始動映像[https://www.youtube.com/watch?v=Y-zuUEpMRuA](https://www.youtube.com/watch?v=Y-zuUEpMRuA) ところで、内和氏は当館が所蔵する陸軍航空部隊の地三号無線機を構成する送信機用発動発電機式電源に強い関心を示され、驚いたことに修復を担当して頂けることとなった。この型のエンジンは、本田宗一郎が自転車の動力に転用したことで知られており、いわゆる「バタバタ」である。 併せ、小生は厚かましくも、同時代の米国海軍・海兵隊用移動無線機「TBX」を構成する送信機用発動発電機の修復もお願いしたところ、こちらも快諾をいただいた。 さて、当日は旧軍航空機の修復、DC-3発動機修復の経緯、さらにはスイスにおける航空機・自動車修復の現況など、多岐にわたる話題で盛り上がり、誠に楽しき一時を過ごさせていただいた。 また、期せずして当館所蔵の大戦期発動発電機2台の修復が実現する運びとなり、誠に驚き、感激した。これにより、ついに念願が叶い、近い将来、帝国陸軍の発動発電機が再び稼働する姿を目にすることができそうである。地三号無線機補足 本機は、第四次制式制定作業により兵器化された陸軍航空部隊の近距離用対空・対地通信機材である。地三号無線機は中型航空機による輸送を考慮して設計され、構成装置は小型・軽量であり、必要に応じて人力による運搬も可能であった。 通信距離は電信で約100km。運用形態は第四次制式機材に共通し、電信は電鍵操作によるブレークイン方式、電話は電鍵操作による変則プレストーク方式であった。地三号無線機 諸元用途:対空・対地通信通信距離:100km送信周波数:1,500〜6,675kHz電波型式:電信(A1)、変調電信(A2)、電話(A3)送信機構成:A1出力40W、A2・A3出力8W、水晶または主発振 UZ-6D6、電力増幅 UY-807A×2(並列構成)、第1格子変調 UZ-6D6送信機電源:0.6馬力発動発電機送信空中線装置:逆L型(柱高6m、水平長20m)、地線は地網2枚受信周波数:1,500〜8,900kHz受信機構成:スーパーヘテロダイン方式高周波増幅1段(UZ-78)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅1段(UZ-78)、オートダイン・再生式検波(UZ-78)、低周波増幅1段(UZ-78)中間周波数:450kHz受信機電源:直流回転式変圧器および6V蓄電池受信空中線装置:直接操作時は送信空中線と共用、遠操作時用は不明TBX補足 本機は1930年代後半に開発された米国海軍・海兵隊用の中距離通信機材である。TBXは太平洋地域の上陸作戦で広く使用され、ニュース映像や映画にも頻繁に登場するため、よく知られた無線機材である。TBX-3型 諸元用途:海兵隊用通信距離:電信50km、電話25km周波数:送信 2,000〜4,525kHz、受信 2,000〜8,000kHz電波型式:電信(A1)、電話(A3)送信出力:電信9W、電話3W送信部構成:発振・直接輻射(837)、第三格子変調受信部構成:スーパーヘテロダイン方式(高周波増幅なし)周波数変換(1C6)、中間周波増幅1段(34)、検波(34)、BFO(CRC-38034)、低周波増幅1段(34)中間周波数:1,515kHz電源装置:受信部乾電池、送信部手回し発電機または発動発電機空中線装置:送受信兼用、垂直ホイップ型または単線展開型地線装置:カウンターポイズ通信機本体重量:12.5kg運搬:携行、駄馬編成、車載