先般、久しぶりに有線通信機材である「移動式印字電信機」を入手した。当館(横浜旧軍無線通信資料館)は無線通信資料館であるため、有線通信機材の収蔵には力が入っていないが、「移動式印字電信機」は陸軍の野戦でも使用された基本的な有線通信機材であるため、資料として必要であった。 入手した「移動式印字電信機」は、本体を収容する木箱は失われていたが、装置自体の程度は良好で、また送受信に際して線路に流れる電流の確認を行う検流計の可動指針部も付属しており、誠に幸いであった。これまで各種の類似電信機を検分してきたが、指針部が揃っている電信機に巡り会ったことはなく、初めてその構造を確認することができた。 これら有線電信機の基本は、電鍵、一次電池電源、通信路、検流計、有極継電器で構成されるループ回路で、電鍵を叩くと通信回路に電流が流れ、対向の有極継電器が動作する。有極継電器は二次電源電池および電磁石式印字機、または音響器(サウンダー)により信号受信回路を構成し、印字または音響により通信電信符号を再生する。 印字式電信機には各種があるが、その代表機材は逓信省が使用した「逓信省型標準印字電信機」である。本機は逓信省が管轄した有線電信部門の殆どの端末で使用されたが、その導入は明治初期であり、以降変わることなく昭和初期まで使用された。 今般入手した「移動式印字電信機」は「逓信省型標準印字電信機」の小型版で、その基本構造および動作は同一であるが、出力は印字方式のみで、サウンダー用出力回路は備えていない。 なお、帝国陸軍は今般入手した「移動式印字電信機」と同一構造の電信機を野戦で使用したが、当該物品が陸軍の調達品であったのかは不明である。