FL-2A05Aは、戦前にドイツのテレフンケン社が開発したセミバリアブルミュー特性を有する万能五極管「NF-2」を国産化した帝国海軍向けの真空管である。本管は主として、航空部隊の大型機に搭載された「零式空4号無線帰投方位測定機」の構成管として使用された。 残念ながら当館は「零式空4号無線帰投方位測定機」を所蔵していないが、資料として構成管であるFL-2A05Aだけでもぜひ入手したいと長らく考えていた。このため、今般の入手により長年の懸案の一つがようやく解決し、誠に幸いである。 なお、「零式空4号無線帰投方位測定機」の原型であるテレフンケン製Peil G-5(軍用名EZ-2)は、民間航空機用方向探知機として我が国を含む各国の大型航空機で使用され、世界一周飛行を行ったニッポン号にも装備されていた。FL-2A05Aの導入 戦前、帝国海軍航空部隊はドイツ・テレフンケン社製の機上用方向探知機EZ-2を輸入し、これを「T式空4号無線帰投方位測定機(テ式空4号)」として制式化した。本機は96式陸上攻撃機や一式陸上攻撃機などの大型機に搭載されたが、装置は万能五極管NF-2一種類のみで構成されていた。 その後、国際情勢の緊迫化によりテ式空4号の輸入が困難となったため、1940年(昭和15年)頃に急遽国産化が図られ、「零式空4号無線帰投方位測定機」(零式空4号)として制式化された。この際、構成管であるNF-2も日本無線により併せて国産化されたものと考えられる。 それまでNF-2は汎用管として国内に流通していたため、国産型も当然その管名を引き継いだ。しかし、海軍向けには「FL-2A05A」の管名が付与され、同一の真空管に対して二つの管名が併存することとなった。新鋭真空管への管名の付与 海軍航空技術廠は1940年(昭和15年)頃から、各種無線装置の生産性および整備性の向上を目的として統一規格化の研究を進めていた。併せて使用する真空管についても統一が図られ、送信管として発振管「FZ-064A」と電力増幅管「FB-325A」が、受信管として万能管「FM-2A05A(注:FL-2A05Aではない)」が開発された。 このうちFM-2A05Aは、テレフンケン社のNF-2を参考に日本無線が開発した、セミバリアブルミュー特性を有する万能五極管である。 型番の「F」は航空機用、「M」はオクタルベース、「2」はフィラメント電圧12V(6Vの2倍)、「A」は万能管、「05」は五極管1組、最後の「A」は開発順序を表す。 このため、FL-2A05Aの管名も同様の方針に基づいて付与されたものと考えられるが、ベース形状を表す「L」が何を意味するのかは判然としない。 なお、新規に開発されたFM-2A05Aはボタンステム構造を採用した五極管であり、精巧な電極構造を有することから生産性に劣る真空管であった。このため戦時下における大量生産には適さず、間もなく東芝が開発した万能五極管「ソラ」に置き換えられた。FL-2A05A(NF-2)補足 本管はトップグリッド型のセミバリアブルミュー五極管である。ステムはバンタムステム構造で、ベースは外側に突出した8個の端子による接触型である。寸法は全長103mm、最大直径38mmであり、同系統のST管UZ-6D6の全長122mmと比較するとかなり短い。また、外面にはメタルコーティングが施されている。規格線条電圧:12.6V線条電流:200mA陽極電圧:200V陽極電流:3mA第一格子電圧:-2V第二格子電圧:150Vgm:4000℧ なお、本管のベース構造の正式な呼称については判然としないが、P型として記述される例も見られる。P型は1935年頃にPhilips社が開発した外周接触式の8端子構造であり、このことからFL-2A05Aの形式名における「L」は、このP型ベースを指している可能性がある。海軍「零式空4号無線帰投方位測定機」諸元用途:大型航空機測定項目:一般受信(単一方位確定)、手動受聴式、航路計式、A/N復調式運用周波数:長波165〜400kHz、中波400〜1,000kHz電波形式:A1(非変調波)、A2・A3(変調波)受信構成:ストレート方式、空中線合成・位相反転回路、高周波増幅3段、検波、低周波増幅1段、唸発振(BFO)、AGC機能付、構成管FL-2A05A×6電源装置:直流回転式変圧器空中線装置:方位測定用回転式枠型空中線(ループアンテナ)、補助垂直空中線(センスアンテナ)兼通信用固定空中線、機体接地T式/零式空4号補足 本方位測定機は、受信機本体、ループアンテナおよびその回転器、通信用空中線を兼ねるセンスアンテナ、管制器ならびに電源装置などによって構成されている。機上での運用は、一般受信、手動受聴式方位測定、航路計式およびA/N復調式による帰投方位測定(ホーミング)である。 また、本方位測定機は、受信同調や方位測定に関わる一切の操作を、ワイヤーケーブルを介して接続された管制器により遠隔操作で行う。さらに、方位測定に必要なループアンテナの回転操作についても、管制器と同一位置に設置された枠型空中線回転器によって行われる。