戦時中の米軍レーダーの調査
東京大学名誉教授霜田光一

1. B29搭載レーダーの調査



 昭和年19年(1944年)11月21日、B29の編隊61機が長崎県の大村地区を空襲したが, このとき撃墜された1機は火を吹かずに有明海に墜ちた。このB29の機体は分断されて海軍の大村航空廠に運びこまれた。そして搭載されていたレーダーは、12月初旬陸軍多摩研究所霞分室に運ばれ、陸海軍合同で分解調査することになった。
 これはWestern Electric社製のAN/APQ13という波長3cm(X-band)のレーダーであって、下記のパーツに分けて12月12日から15日まで丸4日がかりで調査した。

Transmitter and Receiver、Antenna、アンテナ回転装置、Modulator、Indicator、Indicator for Navigation、Synchronizer、Azimuth Control Box、Range Unit、High Tension Rectifier、Voltage Regulator、Phasing Unit、Torque Amplifier、Junction Box

 私はこのレーダーの主要部である送受信機とアンテナの詳細な調査を行なった。まず装置の外側の泥をおとして分解し、各部分の外形だけでなく、可能な限り内部まで寸法を測定した。現場には電気的測定器が無かったので、動作特性は後日測定された。装置全体は非常にコンパクトにまとめられている。
私の実験ノートはだいぶ風化が進んで判読しにくい部分もあるが, 図1〜6は12月12日から4日間のノート、のコピーである。全体の構成は図7にあるが、以下ノート記載順に説明する。

図1. B29搭載レーダーのアンテナと送受信機

 アンテナは単一の放物面でなく、PPI表示に適するような偏平な指向性を与えるために、放物面の半分を傾けた形の反射面になっている。フィーダーとなる投射器の詳細は図6にある。送信機のマグネトロンには高電圧をかけるので、送受信機全体が圧力容器に収められている。圧力容器の外形・寸法は図8にある。送受信機は左下に図示するように緩衝ゴムを介して支えられ、アンテナとは右上に図示するフレキシブル導波管でつながれている。
 受信機の局部発振器には、2つのクライストロンが用いられ、一つはPPIレーダー、もう一つは航行用ビーコンの周波数に同調されている。24V RMS5000とあるのはマグネトロンを空冷するブローワー。

図2. マグネトロンと送受切換回路

 図の上部は導波管接続フランジの構造。次はマグネトロン730Aと永久磁石。永久磁石の磁極間隔は16mmで磁界の強さは4000〜5000ガウス。マグネトロンは厚さ15.5mmで、陽極電圧12kV、陽極電流10A。パルス繰り返し周波数は航行や測距のレンジにより3段以上変えることができ、パルス幅も変えられているようである。中間周波増幅器の真空管717Aの特性は図9にある。
 図の下部は切換放電管とその空洞共振器。

図3. 導波管、クライストロン、検波器

 図左上に示すように、切換放電管は導波管に抱き付くように2つ付いている。図の左方に19φとあるのはマグネトロンの出力端。その近くにある切換放電管は放電時に3cm波を通し、放電していないときには反射する。右側の放電管でも同様の動作をするが、この切換放電管を透過した3cm波はクライストロンと鉱石検波器の方に流れる(図で幅31.7と記した導波管)。切換放電管には図2の左下に示すように、2つの主放電電極の他に放電管の中心に細い棒状の電極がある。2つの切換放電管のうち後者には、「keep alive」といって常時微弱な放電電流を(図1の右端にみえる黒いケーブルから)流し、上側の主放電電極の穴から主放電間隙に少量のイオンを供給する。これは、送信パルスの立上がりのときに切換放電管の放電の立上がりが遅れると、強い送信パルスの立上がり部のパワーが十分に阻止されないで鉱石検波器を焼損するので、放電の遅れをなくしてそれを防ぐためである。
 図右上はクライストロン723A/B(後に2K25となった)の外形で、断面図は図8にある。その左は導波管と2つのクライストロンと鉱石検波器と中間周波増幅器の接続。その下は鉱石検波器で、その右の上部は鉱石検波器ホルダーで下部はホルダー受け。左下の図の導波管にある6.6φ の2つの穴にクライストロンの同軸出力が挿入される。その中間にある可動ロッドはレーダー波長とビーコン波長の差による不整合を補正する装置だろうか?

図4. モニター、中間周波増幅器、入カトランス

 送受信機とアンテナとの間の導波管には、図上側に示すモニターが付いていて、図1右側中央にあるjunction boxにプラグを挿人してモニター電流を読むようになっている。導波管の中の定在波が0でなくても送信パワーの値を正しく求めるために、2つのモニターを付けてその間隔を3/4波長にしている。この理由が分かったので、このとき初めて私は、このレーダーの波長を31.4mmと算出した。
 その下は中間周波増幅器の回路図であって、真空管717Aを用いた初めの2段の増幅器が送受信機の圧力容器内にある。後段の増幅器は図10の同期器(synchronizer)の中にある。
 図の下側はマグネトロンに高圧パルスを与えるパルストランスであって、絶縁油の中に浸されている。鉄心は高磁性体の薄いリボンを巻いて作られている。コイルの巻き数まで調べ、巻数比は24:91である。変調器(図9)のパルスは降圧してケーブルで送受信機に導かれ、このパルストランスで昇圧してマグネトロンを発振させる。12月13日は1日がかりでこのトランスを分解して調査した。

図5. 高圧2極管と送受信管回路

 705Aはマグネトロンにかかる逆電圧を吸収する2極管で、下の19.12.14のところに回路図が出ている。クライストロンとマグネトロンの回路図で、T302、T303、T304はそれぞれマグネトロン、高圧2極管、クライストロンのヒータートランス。左下にある4つのコイル(T301)が図4のパルストランス。K301はレーダーとビーコン切換の電磁リレー。

図6. 同軸-導波管変成器とアンテナ投射器

 アンテナの回転部は同軸円筒でマイクロ波を伝送する。同軸-導波管変成器で導波管-同軸-導波管と変換し、回転部分は浮遊接触(C-coupling)になっている。図の中央は導波管からマイクロ波を反射鏡に向けて放射する投射器であって、マイカをゴムで挟んで気密にしている。投射器の外部は低い気圧だが、導波管の中は送受信機の中と同じくほぼ1気圧に保たれる。

 調査担当者による報告会が20年1月8日に行われ、図7〜11はこの報告会における私のメモである。自分が報告した送受信機は含まれていないが、その圧力容器とアンテナとの接続は図8の上側に出ている。その他の詳細はそれぞれの図について説明しよう。

図7. B29レーダーの系統図

 20年1月8日の調査報告会メモ。矢内中尉は柳井中尉の誤り。装置の総重量は300kgで所要電力は26Vで1.5kVA。変調器、同期機、指示機などは機体の中にあり、送受信機とアンテナは胴体下部にある。

図8. アンテナ、マグネトロン、クライストロン

 図の上部はアンテナと送受信機。アンテナは風防(radome)の中に、送受信機は圧力容器の中にある。730Aは12分割陽極のマグネトロン。金属製クライストロンフ23A/Bは機械的に同調することができ、同調ねじを回して最大出力のときの波長は3.23cmであった。

図9. 使用真空管

 5D21は変調用4極管。705Aは高圧2極管。706AYは波長10cmのマグネトロンで、B29ではなく、後述のSJレーダーのマグネトロン。717Aは高相互コンダクタンス5極管で中間周波増幅用。変調器の回路図によれば5D21の並列出力を巻線比90:24のパルストランスで降圧して送信機に送り出す。

図10. 測距機、同期機

 

Range Unitは水晶発振器から測距や較正に必要な各種の周波数を作って、同期機と変調器に送っている。レーダー動作のレンジは、4、10、20マイルの3段、航行ビーコンのレンジは50、100、150、200マイルの4段ある。下部の図によると、受信機の中間周波出力は第2局部発振器6V6(95MHz)で第2中間周波に変換され、717Aで4段増幅し、6AC7で検波してビデオ信号を6AG7から送り出す。受信機からの中間周波は717Aで増幅した後6SL7と6SN7でAFC(自動周波数制御)信号をつくり、図5のクライストロン回路の端子P に送り、クライストロンの発振周波数を制御する。

図11. 指示機と算定具

 指示機のブラウン管は陰極接地で、陽極に高電圧をかける。磁界集束、磁界偏向方式である。下方の回路図でわかるように、磁界偏向コイルをセルシンモーターでアンテナ回転に同期して回転し、円形にPPI表示する。受信信号は6AK5で最終段増幅して輝度変調している。算定具の測距、高度の単位はマイル。風防(radome)の誘電率は3GHzの測定値が1.45で、tan∂は13X であった。