2. 米潜水艦DarterのSJレーダーの調査



 米潜水艦Darterは、19年10月23日最後の艦隊決戦でレイテに向かっていた日本艦隊をパラワン海峡で迎撃して、魚雷で巡洋艦「愛宕」を撃沈し「高雄」大破させた。翌日未明にDarterは暗礁に乗り上げて坐礁し、乗員は僚艦に救助されたが船体は放棄された。日本海軍にとってこれは米潜水艦を調査する絶好の機会であり、艦政本部は調査団を送って11月21日にこれを調査した。レーダー装置は徹底的に破壊されていたが、押収した書類の中にはレーダーの取扱説明書が含まれていた。
 当時私は、このような情報を詳しくは知らされていなかったが、20年1月24日から2月8日まで、米潜Darter搭載のSJレーダーを詳細な取扱説明書に基づいて調査した。
 Darterには、対空見張りに波長2〜3.5mのSDレーダー、水上見張りに波長9cm(S-band)のSJレーダーが装備され、そのほか電波探知機、無線方位測定機などもあった。

 SJレーダーの送信機は、パルスの繰り返し周波数1500Hzで尖頭出力50kWのマグネトロン706AY(14kV、15A、1500ガウス)を用い、受信機は中間周波数60MHzの鉱石スーパーヘテロダインである。パラボラアンテナの高さは10mで、見張用には毎分16回連続回転し、PPI表示する。等感度法での測角には毎分1720回の速さでビームを5°振らす。アンテナと導波管を除く装置の大きさは、およそ48X38X51㎤)で総重量86kg 、所要電力450〜550Wであって、大変小型軽量で高性能である。
 以下、調査結果のノートの図12〜15について説明する。

図12. SJレーダー調査の概要

 CW-433ABMは空洞波長計。右側の数値は3種類のマグネトロンの波長に対するマイクロメーター目盛であろう。本体の大きさはインチで表されているが、換算すると高さ51.1cm、幅47.9cm、奥行き38.4cmであるが、一部の突出(導波管?)を含む全体の高さは62.6cm。

1) 電源には直流300V、450V、1200Vと交流115Vがあり、総電力は450〜550ワット。
2) 同軸ジャックには、正と負の同期パルス出力、中間周波出力、送信パルスモニター、味   方識別機同期パルス(IFFはIdentification of Friend or Foeの略)がある。
3) 鉱石検波器電流計
4) パルス繰り返し周波数制御ノブ
5)AFCのon-offスイッチ
6) 電源スイッチおよび高電圧スイッチ
が付いている。図下側は全体の系統図。V11はマグネトロン。Beat Oscil.は局部発振器。T.R.Cav.は送受切換放電管空洞。AFCは中間周波出力をdiscriminatorで弁別し、局部発振器クライストロンのrepellerにフィードバックして周波数制御する。

図13. SJレーダーの回路図と真空管など

 変調パルス発生器の原発振器は6SN7のマルチバイブレーターなので繰り返し周波数は可変。
 変調器とバイアス制御器は、変調パルスを5D21で電力増幅してマグネトロン706を発振させる。マグネトロンは8分割陽極で陽極接地されているがこの図では省略されている。705は高電圧2極管であって、マグネトロンの陽極電流が流れる。右側の706に続く図はS-bandの同軸回路で、AとBはインピーダンス整合のためのトラップ。その下の切換放電管は1MΩの抵抗を通してkeep alive電流が流れ、受信波は切換放電管空洞を通過して右側の同軸回路に入る。受信波は、鉱石検波器で局部発振波(B.O.)と混合されて中間周波出力となる。鉱石検波器には整流電流計が付いている。送信パルスは切換放電管空洞で反射され、最下部の導波管でアンテナにフィードされる。図の左側にあるVR-150-30は150Vの定電圧放電管。
 マグネトロン706にはAY、BY、CYの3種類ある。SJレーダーには706AY、M8レーダーに706BY、SHレーダーに706CYが用いられる。電気的規格は同じで波長が少しずつ異なるらしい。
 クライストロン726Bの旧型は707A。リペラー電圧により±10MHzの範囲に周波数可変。
 鉱石検波器はシリコンの1N21で、予備5個。変換損失は8.5デシベル。整流電流が0.5〜0.7mAでS/Nが最大になる。味方レーダーの送信パルスによる焼損を避けるため、鉱石保護モーターがある(図14の説明参照)。鉱石検波器は静電気からもマイクロ波からも遮蔽するよう取扱注意。温度範囲は−40°F〜160°F 。真空管と同程度の機械的衝撃に耐える。

図14. 回路図(続)、操作法とフィーダー回転部の構造

 中間周波増幅器は60MHzで帯域幅約5MHzの低雑音717A2段増幅。自動周波数制御(AFC)はリペラー電圧を制御して、中間周波数を60±0.5MHzに保つ。
 同調手順1)〜6)
 作動(スイッチ)の順序a) 〜d)の最後は、赤ランプが点いたら、高電圧(H.T.)スイッチを入れる。そうするとマグネトロンが発振し、5秒後に鉱石検波器が接続される。これによりレーダー休止中は鉱石検波器は保護され、レーダー動作のときに鉱石保護モーターが働いて接続される。
 アンテナ回転装置 : 潜望鏡の中の円形導波管と図15のアンテナは36:1のウォームギアで毎分16回転し、この図下側の導波管で送受信機につながる。導波管の左下に付いているのは同調用プラグ。潜水中、アンテナと円形導波管の中には水圧がかかるので、円形導波管の下部に最大直径51mm全長96mmのポリスチレンのプラグがあって水圧を支える。同軸の内側導体は直径5.8mmで、アンテナとともに導波管の中で回転し、外側導体は浮遊接触になっている。

図15. アンテナの構造とビーム切換回路

 反射鏡は角を丸くした76X 27㎠の長方形の放物面。等感度法で測角するため、方向が5°異なるビームをつくるように2つの矩形導波管(58.5X27.5㎠)で水平偏波を放射する。円形導波管の上には「く」の字形の穴が2つあるアイリス(絞り)があり、半円形のチョッパーをベベルギアで毎分1720回回転してビームを切り換える。円形導波管は内径76.2mmで、トルクを担う直径10cmの管の中にある。円形導波管の中で乱れた偏波成分を吸収するため2枚の抵抗板(200と500Ω/□inch)がある。円形導波管のサイズから波長を推測すると8.74cmであるが、より正確には同調用プラグの位置から計算し9.12cmとなった。