3. あとがき



 日本の艦船用電探は受信機だけでも数十kgあって、総重量は数トンもあるのに、米軍のレーダーは桁違いに小形軽量にまとめられているのにまず驚かされた。日米の技術力の差は歴然としていた。B29の装置が爆撃照準用のPPIレーダーと航行用のビーコンと両用の装置であることは、この調査で初めて知った。B29は3分の1気圧以下の高空を飛行し、潜水艦は10気圧以上の水中を潜航するのに十分耐えられるような対策が、それぞれ入念に施されている。そして敵味方識別装置を備え、レーダーのレンジは近距離から遠距離まで必要により切り換えている。これはレーダーが索敵警戒や射撃爆撃などだけでなく、編隊の統制や連携のためにも用いられていたからである。SJレーダーには、味方のレーダーの電波で鉱石検波器が焼損するのを避けるための装置まであるのにはびっくりした。全艦船が強力なレーダーを備え、集結して作戦行動するので必要になったのであろうが、より低出力のレーダーを漸く使い出したばかりの日本では、考えもしなかった。
 送受切換回路については図の説明で述べたが、日本ではメートル波用の同軸型放電管はあったが、図2や図12にあるセンチ波の空洞用の切換放電管は研究も試作もできなかった。フレキシブルな導波管も、X-bandの金属製クライストロンも日本にはなかった。パルストランス、導波管、アンテナ、風防のradomeなど、日本では戦前の技術から少ししか進歩していなかったが、米軍のレーダーに使われた技術は飛躍的に進歩していた。
 マイクロ波技術では、導波管フランジ(図2)、C-coupling(図6)、回転部の同軸-導波管結合(図14)に、4分の1波長トラップの原理を応用した浮遊接触(floating contact)が使われていたが、これは日本の技術者には理解できない高度技術だった。同じ構造が同調プラグやセンチ波と中間周波信号の分離にも使われていて、私はそれからそのレーダーの使用波長を推定した。