掲示は「地1号受信機」である。従来事務局は、本機は地1号無線機を構成する受信機の後期型であると考えていた。しかし、調査・検討の結果、「地1号受信機」は地1号無線機とは管理が異なる、航空部隊地上用(地型)の汎用受信機であるとの結論に到った。 このため、まず、本受信機の導入に関わる経緯について考えてみた。問題の所在 大戦末期になり、陸軍は無線装置の型式標記方法を変更した。本式では、新たに製造・導入される機材については、無線装置を表す「ム」に管理番号を併せ表記する方式となり、改修機材には「改」表示を付加することになった。「地」関連機材では、地2号無線機は「ム62」、地3号無線機は「ム63」であり、このため、未確認ではあるが、地1号無線機には当然「ム61」標記が割り当てられたと考えられる。 しかし、地1号受信機の簡易型である「地1号受信機2型」を改修した末期型の標記は「ム65二型改受信機」であり、明らかに「ム61」とは扱いが別で、両機材の管理が異なることを示しており、従来の考えに疑問が生じた。無線装置の表示方式 陸軍の場合、無線装置を構成する機材は「地1号無線機・送信機」、「地1号無線機・受信機」の様に分類標記され、銘板や回路構成図の表示も同一である。このため、確認された地1号無線機の送受信機に添付された銘板や構成図の標記もこれに符合する。しかし、従来事務局が地1号無線機を構成すると考えていた受信機の銘板及び回路図標記は、「地1号受信機」であり、「地1号無線機・受信機」ではない。「地1号受信機」の開発と導入 地1号無線機は航空部隊の遠距離通機材であり、使用目的からして、その生産台数はさほど多くはなかったと考えられる。一方、「地1号受信機」と標記される受信機の現存機は類型の「ム65二型改受信機」を含めると相当数に上り、一部受信機の収容箱には「外務省」と表示されたものもある。このため、「地1号受信機」は地1号無線機を構成する受信機とは別に、数多くが整備されたものと考えられる。 現存機の製造年月より推測して、「地1号受信機」の導入時期は昭和18年の後半と考えられるが、戦争中期以降になると戦局は緊迫し、対空・基地間通信・敵通信傍受等に、既設無線装置とは別に、大量の受信機が必要となった。このため、陸軍航空本部は既設の「地1号無線機・受信機」を量産に適した構造に改修し、航空部隊用の汎用受信装置「地1号受信機」として大量に導入したのではないかと推測される。この場合、本受信装置は当然「地1号無線機」とは管理が異なるため、無線装置の型式標記方法が改訂された際、表示は「ム61」ではなく、「ム65受信機」になったと考えられる。 以上により、事務局は、「地1号受信機」は「地1号無線機」を構成する受信機とは別に、航空部隊用の汎用受信機として開発、導入されたものと考える。 なお、型式標記改訂以降に製造された地1号無線機があるとすれば、受信機の標記は「ム61・受信機」と考えられる。また、受信機に「地1号受信機」が流用された可能性も有るが、この場合の型式標記については既設受信機との関係もあり推測がつかない。「地1号受信機」について 本受信機は「地1号無線機・受信機」改良型を基に開発された陸軍航空部隊の汎用受信機で、その導入は昭和18年の後半と考えられる。本機の回路構成は「地1号無線機・受信機」改良型と大差はないが、構造は大分簡易化されている。 地1号受信機は高周波増幅2段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段のスーパーヘテロダイン方式で、AGC機能及びBFOを具えている。対応周波数は140-20,2000KHz(原型)で、この周波数帯を差替え式線輪9本で受信する。本受信機には原型及び2型、ム65二型改等があり、構造、運用周波数等が各型により異なる。以下では本受信機の性能及び構成について概観する。 なお、各型の概要については追加資料の項に掲示した。「地1号受信機」性能評価試験 本受信機は陸軍航空部隊の汎用受信機と考えられ、類型を含めた現存機数はかなりの数に上る。しかし、残念ながら、「地1号受信機」の性能を定量的に評価した資料を当館は所蔵していない。このため、今般「地1号受信機」に関わる性能評価試験を、当館が日頃お世話になっている軍用無線器機の収集家、山田忠之殿にお願いした。山田殿はかって、JRCエンジニアリングの社長を務められた本分野の専門家であり、試験評価にはこの上ない人物と考えられる。 また、本測定作業に関連し、収集家各位のご協力を頂き、これまでハッキリしなかった1号IFTの中心周波の調査を併せ行った。この結果、報告された中心周波数は65KHzの上下2〜3KHzに収斂したため、1号IFTの中心周波数は65KHzであろうと考えられる。このため、本稿では1号IFTの周波数表記を65KHzに統一した。 なお、山田殿に御寄稿頂いた本受信機の試験測定結果及び評価については、追加資料の項(002)に掲示した。「地1号受信機」(原型)概要 本受信機の空中線は単線式で、空中線入力側には切替式入力可変器及び、空中線共用回路を備えている。フロントエンドは五極管UZ-6D6による高周波増幅回路2段、第一検波は五極管UZ-6C6による周波数混合回路及び、UZ-6C6による局部発振回路により構成されている。局部発振回路はハートレー発振方式で、出力を周波数混合管の第3格子に注入している。各段の同調回路は4連式可変蓄電器により構成され、高周波増幅段、第1検波段にはトラッキング用として、手動補正式の小容量可変蓄電器が付加されている。 同調ダイアルは単一なギャ式で、360度を10分割した副尺付同調ノブにより、100度目盛りのドラムを回転させるが、周波数は差替式コイルに添付された置換表により読み取る。 中間周波増幅回路はUZ-6D6二本による2段増幅方式で、中間周波数は受信周波数140-1,500KHzが65KHz(一号IFT)、1,500-20,000KHzが450KHz(二号IFT)で、中間周波数の変更はプラグイン式IFTユニットを受信機上部から差替えて行う。本受信機の手動利得調整は中間周波増幅管のカソード電圧を可変して行う。 中間周波増幅2段出力側と検波回路の間には、帯域幅を可変する濾波器が装置されている。本濾波器は450KHzの水晶片1個使ったブリッジ平衡式で、帯域の可変は中和蓄電器によって行い、可変範囲は大凡0.25〜8KHzであるが、挿入損失が約5db程度有る。なお、1号IFT使用の場合、濾波器は動作しない。 第二検波は複合管Ut-6B7の二極部で行い、低周波出力は5極部及びUZ-6C6による2段増幅である。電信復調用のBFO回路はUZ-6C6によるハートレー発振回路で、出力をUt-6B7の二極部に注入している。 本受信機はAGC機能を備えており、検波回路より取出したAVC電圧を高周波増幅1段・2段及び、中間周波増幅1段・2段を構成する各管の第一格子に加圧している。AGC機能の接・段は電信・電話切替器により行われ、電話モードの場合は接、電信の場合は断となる。 なお、「地1号受信機」は「地1号無線機・受信機」とは異なり、電信・電話切替器により、第二低周波増幅管の第2格子回路を変更し、音量を大・小に切替える機能は具えていない。「地1号受信機」原型諸元受信機構成: スーパーヘテロダイン方式(AGC機能付)、高周波増幅2段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段受信周波数: 140-20,000KHz中間周波数: 65KHz(受信周波数140-1,500KHz)、450KHz(1,500-20,000KHz)帯域濾波器: 450KHz水晶式濾波器電源: 蓄電池及び直流変圧器、交流式電源受信空中線: 逆L型写真補足 掲示は「地1号受信機」の原型である。パネル構造は前面上段右より、空中線端子(上部が単空、下部が共空)、第一高周波補整蓄電器、第二高周波補整蓄電器、同調ダイアル目盛、検波補整蓄電器、選択度調整器(水晶式濾波器)、音色調整器(BFO)。中段右より、地線端子、空中線入力切替器、同調ダイアル、音量調整器、電話・電信切替器。下段右より、差替式線輪、線條・陽極電圧接・断器、受話器端子である。下記URLに本項に関連した追加資料を掲示した。http://kenyamamoto.com/yokohamaradiomuseum/2012apr22.html