先般、国内のNet Auctionで、帝国陸軍の対空警戒用レーダーに使用された東芝製の強制空冷式送信管、RT-323を入手した。本管は箱型トラックに装備されたタチ7号(超短波警戒機乙車装用)、トラックでの運搬用レーダーであるタチ18号(超短波警戒機乙車載用)及び、船舶に装備されたタセ1号(船舶用電波警戒機乙)等の送信管として使用された。当館は帝国陸海軍電波兵器に関わる送信管の蒐集を行っており、今般の入手は誠に幸であつた。 なお、関連写真、資料をFacebook「旧日本軍無線機 etc.」に掲示した。https://www.facebook.com/groups/1687374128228449/?ref=bookmarks送信管RT-323諸元(電子管の歴史)線條電圧: 16V/電流: 20A最大陽極電圧: 10,000V陽極損失: 750w総合伝導度: 5.5m(モー)増幅率: 23μ(ミュー)最大周波数: 120MHzタチ7号装置概要 タチ7号は陸軍の主要対空監視用レーダーであるタチ6号に続き開発された車輌装備式の野戦用電波警戒機で、本機はその機動性を生かし、必要各地に臨機応変に配備された。本レーダーの測定最大距離は200Km(編隊)で、測定は最大感度方式であり、波形表示はAスコープ方式である。 本警戒機は特別仕様の箱車型トラック3台に装備され、これに修理要具、予備品を積載したトラック1台が随伴した。タチ7号は米軍の車装式警戒用レーダーSCR-270に類似し、開発に際してはフィリピンでの鹵獲機材が参考にされた考えられる。 なお、SCR-270はハワイ島に設置され、帝国海軍の真珠湾攻撃に際し、侵入海軍機を補足したレーダーとして知られている。タチ7号電波警戒機諸元用途: 対空早期警戒周波数: 100-116MHz繰返周波数: 750Hzパルス幅: 20-40μs尖頭出力: 50kw空中線: 半波長ダイポール水平4列3段、反射器付、地上高8m、利得35、 送受兼用水平ビーム: 20-30°送信機: 発振管RT-323( P.P.)変調方式: パルス変調、変調管UV-203A x2(並列)受信機: Wスーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段(UN-954 x2)、第1混合(UN-954)、第1局部発振(UN-955)、第1中間周波増幅3段(UZ-6D6 x3)、第2混合(UZ-6C6)、第2局部発振(UZ-6C6)、第2中間周波増幅3段(UZ-6D6)中間周波数: 第1中間周波10MHz、第2中間周波4MHz帯域幅: 500KHz利得: 120db測定方法: 最大感度方式信号表示: Aスコープ方式掃引幅: 0-200km測定距離: 編隊200km、単機165km測距精度: ±5km測角精度: ±5°電源: 17kVAディーゼル発電機、3相220V総重量: 18,000kg(積載トラック4台込)製造: 住友生産台数: 約60台タチ7号概観 本レーダー構成する送信装置、受信装置及び発電装置は各箱車型トラックに装置され、空中線装置は組み立て式で、受信車の上部に設置された。空中線装置 本空中線は半波長ダイポール水平4列3段、反射器付で、受信車の上部に組み立てられる櫓に装置され、最頂部は地上高8mである。空中線の回転は手動式で、360°の回転を可能とするため、空中線と饋電線の結合は静電結合方式である。本空中線は送受信兼用で、受信機入力側饋電線には放電管B-3が装置され、送信波が直接受信機に入り込むのを防いでいる。送信装置 本装置は送信機及び、衝撃波変調機により構成されている。送信機 本機はレッヘル線同調回路で構成される三極管RT-323P.P.による自励発振器で、変調管UV-203Aによりグリッドを制御され、尖頭出力50Kwで発振する。送信装置には送信出力波監視、観測用の、簡易なオシロスコープが設置されている。衝撃波変調機 本変調機は同期信号発生器及び変調部により構成されている。同期信号発生器はブロッキング発振回路により750Hzの同期用基本信号を発生し、指示器及び変調部に供給する。変調部では同期信号より幅20-40μs のパルスを発生させ、変調管UV-203Aは出力パルスにより発振管RT-323のグリッドを制御する。受信装置 本装置は受信機及び、反射波を観測する指示器により構成されている。受信機 受信機はWスーパーヘテロダイン方式で、高周波増幅2段、第1中間周波増幅3段、第2中間周波増幅3段構成である。第一中間周波数は10MHz、第2局部発振回路は水晶制御方式であり、第2中間周波数は4MHz、帯域幅が500KHz、総合利得は大凡120dbである。 本受信機はタチ6号と同様に受信信号を検波せず、第2中間周波増幅信号を直接指示器に出力する。指示器 本指示器は掃引信号発生回路及び、表示管回路より成る静電式のオシロスコープである。受信機の第2中間周波増幅出力はタチ6号と同様に、表示管の上側偏向板に直接加圧される。波形表示は反射パルスの振幅を縦軸に、距離を横軸(時間軸)で表すAスコープ方式で、測定は最大感度方式である。 掃引信号発生回路は変調機より供給される同期信号750Hzを基に掃引用鋸歯状波を発生させ、受信反射波を静止画像として画面表示する。本指示器は測距用マーカー信号回路を具えて居らず、標的波の距離測定は表示管に印刷された距離目盛により行う。探索操作 探索担当は受信反射パルスを最大感度方式で測定する。本式では受信パルスの振幅が最大となる様に空中線を回転操作し、標的に正対させる。測定担当は空中線の角度により標的波の方位を測定すると共に、距離目盛により測距を行う。写真補足 掲示組写真@は今般入手した東芝製の強制空冷式送信管RT-323である。残念ながら本管のフィラメントは断線していた。 写真A左はRT-323、右は海軍の住友製強制空冷式送信管TR-1501である。TR-1501は海軍1号電波探信儀1型後期型の送信管(P.P.構成)として使用された。 写真Bは戦後米軍の調査を受けるタチ7号である。本機材は資料が非常に少なく、良い写真がない。当該写真の出典は、戦後米国陸軍調査団が帝国陸軍の電子機器に関わる調査結果を纏めたJAPANESE WARTIME MILITARY ELECTRONICS AND COMMUNICATIONS SECTION Y JAPANESE ARMY RADARである。