この度、暗号研究家の伊藤秀美殿より、先日出版された御著書「日本海軍暗号の敗北・D暗号はいかに破られたか」(上・中・下3部構成)を御寄贈頂きました。 伊藤秀美殿のご高配に、心より感謝申し上げます。 本書につきましては無線通信に関連して、事務局員も若干の情報提供をさせて頂いた経緯があり、文中で過分の謝辞を頂き、誠に恐縮しました。 さて、D暗号は大戦全期に於ける帝国海軍の主要暗号で、開戦日を伝える「新高山登レ一二〇八」の電文もこの暗号で秘匿されました。本暗号については、敵方に解読されているのでは、との疑念が戦中よりあり、戦後この問題は関係者の間で大きな論点となり、長きにわたり尾を引いていました。しかし、1968年になり、米国の暗号研究家David Kahn(カーン)の著書「暗号戦争」により一応の決着が付き、ミッドウエー海戦や山本長官機撃墜は米国の暗号解読の帰結として、一般に受け入れられる事になりました。とは云え、帝国海軍の暗号関係者はその後もD暗号は解読されなかったとの立場を維持し、また、カーンの知見は必ずしもこれらよりの反証を突き崩すだけの説得力を持ち合わせていませんでした。 今般伊藤氏が出版された「日本海軍暗号の敗北・D暗号はいかに破られたか」は米国のD暗号解読作業を詳細に検証すると共に、山本長官機撃墜事件やミッドウエー海戦他、具体的な事例に関わる暗号解読について、綿密な検討及び分析を行っています。 本書により、敵方によるD暗号引き剥がしの事実はより明確と成り、帝国陸海軍に関わる暗号研究は更なる進捗を遂げたと考えられます。