この度、米国のNet Auctionで戦中にRCAが開発した暗視管1P25を二本入手した。昨年米国より1P-25及び後継管である6032(1958年製品化)の廉価品を入手したところ、両管は共に模倣管で、参ったことがあった。とりあえず、今般漸くまともな1P-25が入手出来、誠に幸である。 当館は大戦期の赤外線式暗視鏡を蒐集しており、現在英軍の車載用暗視鏡「Tabby Type-E」、携帯式暗視鏡「Tabby Type-K」及び米国海軍の携帯式暗視鏡「US/C-3」を複数台所蔵している。 これらの内、Tabby Type-E・Kには英国EMI社が開発した暗視管CV-143〜148が使用され、US/C-3は今般入手した1P-25により構成されている。暗視管の開発 1939年(昭和14年)、英国EMI社は世界に先駆け実用的暗視管CV-143を開発した。英陸軍は直ちに本管を使用して、車輌の夜間走行補助装置であるTabby Type-E(双眼式)や、小型携帯式のType-K(単眼式)を開発した。 EMI社によるCV-143の開発は、RCAの暗視管1P-25に3年程先行するが、本管の構造は1P-25とは異なり、電子レンズ機能を具えておらず、赤外線の照射により光電膜より放出される電子を、高電圧で加速し、直接蛍光膜で可視化する方式であった。 これより先、1928年(昭和3年)にオランダ人のホルスト(G. Holst)とボア(H. de Boer)は、光電面に投影された光学像を電子的に増強するイメージ管の原理を発表したが、本管は光電面と蛍光面を近接させ、電子的偏向を行わない方式であり、その構造はCV-143と同一であった。このため、CV-143はホルスト・ボアのイメージ管を参考に開発されたものと考えられる。暗視管CV-143 本管は接眼部分内面の光電膜(陰極)及び、3mmの間隔を空け配置された蛍光膜(陽極)により構成され、構造はホルスト・ボアが考案したイメージ管と同一で、サイズは直径が50mm、長さが49mmである。CV-143の加圧電圧は3,000Vで、光電膜、蛍光膜の間隔3mmは放電を防止する最小間隔である。 CV-143の光電面は、赤外線波長で最大感度を持つ銀セシウムにより形成される半透明な膜で、また、蛍光面はケイ素亜鉛で形成され、発光は緑色である。各膜の直径は35mmで、光電膜には管と一体構造のリボンで、蛍光膜には支持リングを介し高圧が加圧される。暗視管1P-25 本管は1932年(昭和17年)にRCA技術研究所のツヴォルキン(V.K. Zworykin)が開発した米国初の実用暗視管で、光電面と螢光面の間を電子レンズで結ぶ映像増幅管であり、感応波長は0.4-1.2μmである。 1P-25は赤外線を感知する銀セシウム光電面、光電面より出力された電子を加速(増幅)、偏向(収束)する電子レンズ電極及び、電子を可視化するケイ素亜鉛製蛍光面により構成され、発光は緑色である。電子レンズを構成する陽極は4極で、暗視鏡US/C-3の場合、加圧電圧は陰極である光電面が0V、第一陽極が15V、第二陽極が100V、第三陽極が600V、第四陽極が4,000Vとなっている。帝国陸海軍暗視機材 帝国陸海軍に於いても大戦中、各種の暗視管が開発された。これらの性能は英軍のCV-143系と同等と考えられるが、暗視鏡に対する軍の要求性能は過大で、制式化には至らなかった。しかし、陸海軍共に、不可視通信装置として、携帯式を含め各種が開発され、部隊への配備が行われた。写真補足 組写真@の左二本が今般入手した!P-25で、その右が前回入手した紛い物のIP-25及び6032。手前は英軍の暗視管CV-148である。 写真Aは英軍の双眼式暗視鏡Tabby Type-Eで、用途は夜間の車輛走行補助である。 組写真Bは英軍の携帯式暗視装置Tabby Type-Kで、驚くことに電源は内蔵の3,000V積層乾電池である。 写真Cは米国海軍の暗視鏡US/C-3で、左が電源乾電池式(単1二本直列接続)、右がAC117V式である。