先般、標記の吸収型周波数計を国内のNet auctionにて入手した。本周波数計(190-250MHz)は陸軍航空機搭載用レーダーの測定器で、地上に於ける整備時に使用されたと考えられる。「機上電波兵器用」と標記された機材は、陸海軍の電波兵器を収集する当館にとっては誠に相応しく、最適の収集物となった。 入手周波数計はアルミケースの一部が錆びで朽ちており、酸化物を取り除くのが手間であったが、幸いにも内部に欠品は無かった。本機の構造は簡潔で、同調はUピン形状の同調コイルと可変式蓄電器で構成される並列同調回路で、その両端に鉱石検波器及び100μA電流計より成る検出回路が付加されている。測定は電波兵器の発振部に同調回路を結合させて行うが、装置上面に添付された周波数置換表の裏はベークライトの板で、この部分が結合部になっている。 さて、本周波数計の測定対象となった陸軍航空機搭載の電波兵器が気になるが、運用周波数190-250MHzにより、大凡の推測が付く様に思われる。 大戦中、陸軍も海軍と同様に、多くの機上用レーダーの研究、開発を行ったが、これらの内で実戦配備された機材は「タキ1号電波標定機」、「タチ13号電波誘導機(地上部)」に対応する機上用のトランスポンダ「タキ15号電波誘導機(機上部)」及び、タキ13号電波高度計等と、そう多くはない。 「タキ1号電波標定機」は陸軍が実用した唯一の航空機搭載型哨戒レーダーで、運用周波数は200MHzである。 「タチ13号電波誘導機」は地上設置のレーダー類似装置で、機上に設置したトランスポンダ「タキ15号」より送り返されるパルス波の方位角、距離を測定し、当該航空機を侵入敵機に導く誘導機で、運用周波数は送信が 184MHz、受信が175MHzである。また、タキ13号は周波数変調方式の低高度用電波高度計であるが、運用周波数は340-400MHzのため、両機は共に当該周波数計の測定対象外となる。 これらにより、今般入手した「4式1号地上試験機(機上電波兵器用)周波計」は、タキ1号の地上整備に使用されたと推察される。タキ1号1型諸元用途: 早期警戒周波数: 200MHz繰返周波数: 1,000Hzパルス幅: 1μ尖頭出力: 10kw空中線: 機首5素子八木1基、両翼4素子八木各1基、送受兼用送信機: 発振管T-311( P.P.)変調方式: パルス変調、変調管UV-201受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段(UN-954 x2)、混合(UN-954)、局部発振(UN-955)、中間周波増幅4段(RH-4 x4)、検波(RH-4)、低周波増幅(RH-4)中間周波数: 22MHz利得: 100db測定方法: 最大感度方式信号表示: Aスコープ方式掃引幅: 0-100km測定距離: 潜水艦15km、大型艦50km、艦隊100km(高度1,500m)測距精度: ±2km測角精度: ±5°電源: 直流交流変換器(入力直流24V、出力3相100V、750VA)製造: 日本無線 なお、陸軍レーダーの標記であるが、タチ-X、タキ-X、タセ-X等頭に付く「タ」は、大戦中期以降に陸軍の電波兵器の研究開発を一手に行った多摩陸軍技術研究所(多摩研)の頭文字を取った物で、続く「チ」は地上設置型、「キ」は機上用、「セ」は船舶搭載型を表し、番号は各機の開発順位を示している。