先般、近郊の大和で開催された青空骨董市で、久しぶりに旧軍無線機を発見した。梅雨空が続くこの時期、その開催が危ぶまれたが、幸いにも実施され、旧軍機器と巡り会える事となった。 さて、今回業者が持ち込んだ機材は陸軍航空部隊の汎用受信機である「地1号受信機」、「94式5号無線機」を構成する送信機及び、「地3号無線機」を構成する受信機の線輪セットで、線輪はオリジナル木箱入りが二セットもあった。 地1号受信機は銘板、同調器部の上蓋及び、収容ケースの上蓋が欠損した状態で、前面左下部にスナップスイッチが1個追加されていた。しかし、構成部品に主たる欠品は無く、修復は容易と考えられた。また、収容ケースが水色に塗られていたが、これは戦後海上保安庁で使用された名残とも考えられる。 本受信機は構造からして戦争後期の製品であるが、水晶濾波器が付いている事から、型式名は「地1号受信機二型」または、「ム-65二型」と考えられる。 「94式5号無線機」を構成する送信機は収容ケースが無く、また、酷く埃にまみれていたが、構成部品に欠品は無く原状を維持していた。しかし、送信管UZ-12C(双三極管)は欠損しており、代用としてRCAの19が装置されていた。 「地3号無線機」を構成する受信機の線輪は二セット有り、汚れてはいたが、何れもオリジナルの木箱に収容され、コイルの状態は良好であった。各箱に収容されたコイルは2番(2.3-3.6MHz)、3番(3.6-5.65MHz)、4番(5.65-8.9MHz)で、添付された機材番号は収容箱に筆書きされた機材番号と一致していた。 ところで、小生がこの出店に到着したとき、受信機については既に他の方が交渉中であり、また、状態は当館の収集対象外であった。このため、地3号受信機の線輪セットについてのみ相談をさせて頂き、両セットを合わせ入手した。 当館は之まで地3号受信機用の箱入線輪は所蔵して居らず、今般期せずして2セットを入手する事が出来、誠に幸であった。地3号無線機に関わる若干の補足 地3号無線機は陸軍航空部隊の近距離用通信機材で、主用途は近郊に点在する関連部隊との連絡である。しかし、本機は他の航空部隊用通信機材に比べ軽便であるため、汎用の通信機として、部隊各所で広義に使用された。 地3号無線機(原型)の通信距離は電信で100km、送信周波数は1,500-6,675KHz、受信周波数は1,500-8,900KHz、電波形式は電信(A1)、変調電信(A2)、電話(A3)で、運用形態は第四次制式機材に共通のブレークイン方式である。本無線装置には原型及び2種類の改良型が確認されているが、各型の主要回路構成に大きな違いはない。地3号無線機(原型)諸元用途: 対空通信通信距離:100Km周波数: 送信1,500-6,675KHz、受信1,500-8,900KHz電波型式: 電信(A1)、変調電信(A2),電話(A3)送信機: 出力40w(A1)、8w(A2・A3)、水晶又は主発振UZ-6D6、電力増幅UY-807A x2並列構成、第一格子変調UZ-6D6受信機: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段、中間周波増幅1段、オートダイン検波、低周波増幅1段中間周波数: 450KHz?送信電源: 0.6馬力発動発電機受信電源: 蓄電池及び直流回転式変圧器、空中線装置: 逆L型、柱高6m、水平長20m、地線は地網2枚掲示写真補足 掲示組写真@は店頭に並ぶ旧軍機材で、左側の木箱二つが地3号無線機の受信機用線輪である。中央の外箱が水色に塗られた機材が地1号受信機で、その前に置かれた小型機が94式5号無線機の送信機である。 写真Aは地1号受信機の前面で、左側下部にスナップスイッチが追加されている。写真で判るように、構成中間周波トランスや構成真空管のシールドケースなどは欠品もなく揃っている。 写真Bは地3号受信機用の線輪二箱で、コイルの程度は非常に良好であった。 組写真Cは当館が所蔵する地3号無線機で、左が受信機、右が送信機である。受信機に装置されたコイルと、今般入手したコイルの外観構造は同一で機材番号も近く、このため、共に戦争中期の製造と考えられる。