先般、山口県立山口博物館より、所蔵する旧軍無線機材に関わる情報提供の依頼があった。当該機材は海軍の大型航空機用の96式空4号無線電信を構成する受信機と管制器及び、陸軍の94式3号甲無線機の送信機用手回発電機であった。 この内、96式空4号関連機材は大戦中期に急遽改修が行われた改2型で、その残存機材は非常に少なく、今日発見される事は希である。写真で見る限り、当該機材に然したる欠品は無く、このため、期せずして程度の良い96式空4号無線電信機の改修型に巡り会うことが出来、誠に幸であった。 なお、当館が所蔵する96式空4号関連機材は原型の受信機、管制器及び、未充足の改2型送信機である。96式空4号無線電信機補足 96式空4号は1936年(昭和11年)に開発、兵器化された海軍航空部隊の多座航空機用無線電信機で、96式・1式陸上攻撃機や2式大艇等の大型機の主無線電信機として使用された。 本無線装置は送信機、受信機、管制器、電源及び空中線装置等により構成され、原型の運用周波数は送信機が短波専用で5,000-10,000KHz、受信機は長波帯が300-500KHz、短波が5,000-10,000KHzである。本機の運用波形は電信(A1)、電話(A3)で、送受信の転換は電鍵(キー)操作によるブレークイン方式である。96式空4号無線電信機(原型)諸元用途: 多座航空機用通信距離: 短波(A1)1,200浬、送信周波数: 短波5,000-10,000KHz受信周波数: 長波300-500KHz、短波5,000-10,000kHz電波形式:A1(電信)、A3(電話)送信入力:300w送信機: 水晶発振UX-47C、第一増幅UV-816D、電力増幅UV-816D x2(並列使用)、変調UY-56B(第1格子変調)受信機構成長波帯: ストレート方式、高周波増幅2段、オートダイン検波、低周波増幅2段(2-V-2)短波帯: スーパーヘテロダイン方式、長波受信部に高周波増幅1段付周波数変換部付加 (高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段構成)電源: 送受信機各回転式直流変圧器(入力12V)空中線装置: 長波垂下式、短波固定式、地線は機体接地構成96式空4号無線電信機の改修 本無線電信機は導入以降3度の改修が行われた。改1型では短波帯の運用周波数が5,000-10,000KHzより5,000-15,000KHzに拡大された。 改2型は大戦中期、南方に於ける夜間の短波帯不達に対応するため、2,500-5,000KHzの中波帯を急遽付加した機材で、併せ、短波帯の運用周波数が5,000-10,000KHzに戻された。また、中波帯を付加するスペースを確保するため、変調回路が廃止され、改2型は電信専用機となった。 なお、改3型については改修内容が不明である。短波帯の不達について 1942年(昭和17年)の半ば、ソロモン方面が主戦場となると常用の短波帯5,000-10,000KHzの不達が顕著となり、作戦に影響を与える大問題となった。これは夜間になると、この地域の最高使用周波数(MUF)が海軍の予測計算とは異なり、5,000KHz以下となる事に起因していた。このため、96式空2号・3号・4号無線電信機に急遽中波帯(2,500-5,000KHz)を付加する改修が行われ、以後製造、開発された機材では本周波数帯が常設となった。掲示写真補足 組写真@は山口博物館が所蔵する96式空4号無線電信機改2型の構成機材で、上段が受信機、下段が送信機・受信機管制器である。管制器は送信機及び受信機の構成真空管線條(ヒーター)電圧調整器他により構成されるが、本機能は必ずしも必要ではなく、改2型では回路が大幅に簡略化され、当該機材では電圧計、電流計も廃止されている。 写真Aは当館が所蔵する96式4号無線電信機関連機材である。左が原型の受信機及び送受信機管制器で、右が改2型の送信機である。 写真Cは二式大艇に搭載された96式空4号で、本機は原型である。送信機は無線機架の下部に設置されている。