先般、米国ロードアイランド州所在の博物館「New England Wireless & Steam Museum」より旧軍無線機材の型式、用途確定に関わる問い合わせがあった。該当機材は以下の様なものであるが、その何もが未使用品で誠に驚いた。・海軍「1号電波探信儀3型」受信機・海軍「96式空2号無線電信機」(原型)・海軍「1式空3号隊内無線電話機」(原型)・陸軍「94式3号甲無線機」https://newsm.org/buildings/wireless-building/richard-a-day-japanese-radio-collection/ 本コレクションは1945年(昭和20年)10月、呉に進駐した米国人Richard A. Day氏が施設内の倉庫で発見、入手したもので、内部には未使用の無線機材が手付かずで大量に残っていたとの事である。近年になり、これら機材は「New England Wireless & Steam Museum」に寄贈され、終の住処を得る事になった。 米国にはラジオや無線通信機器に関わる多くの博物館、資料館があり、相当数の旧軍無線機材が所蔵されている。しかし、その殆どは戦場で鹵獲したり、終戦による武装解除の際に入手された物で、当然の事として未使用品は殆どない。その意味で、今回期せずして極上の旧軍機材に接する事ができ、誠に幸いであった。 ところで、当館は該当の全機種を所蔵しているが、その程度はこれらには遠く及ばない。このコレクションの中に、何故か一台だけ陸軍機材である「94式3号甲無線機」が含まれていたが、写真には手廻式発電機の出力を無線機に供給する電源ケーブルが写っていた。事務局員はこれ迄本コードの実物を確認した事がなく、この写真は参考資料として誠に有要である。掲示写真補足 写真@は海軍1号電波探信儀3型の受信機である。本電探は大戦中期に導入された海軍陸上部隊用の可搬式対空警戒用レーダーで、運用周波数は150MHz帯である。本機は前線への配備を考慮した小型、軽量機材で、設置、取扱が容易の為、陸上使用と併せ、装備の一部を変更し、航空母艦より潜水艦まで、殆ど総ての海軍艦艇に装備された。 写真Aは海軍96式空2号無線電信機(原型)である。本機は1936年(昭和11年)に開発された海軍の二座航空機用の無線電信機で、運用周波数は送受信共に長波が300-500KHz、短波が5,000-10,000KHzである。当初本機は艦砲の着弾観測機用として導入されたが、使い勝手が良かったため、汎用の2座航空機用として広義に使用される事になった。主要搭載機は99式艦上爆撃機や二座偵察機である。 写真Bは海軍1式空3号隊内無線電話機(原型)である。本機は98式空4号隊内無線電話機に続き、1941年(昭和16年)に導入された3座航空機用の編隊内電話通信用機材で、艦上攻撃機天山や対潜哨戒機東海等に搭載された。本機は98式空4号隊内無線電話機と同様に、運用周波数は30-50MHzの超短波帯で、送受信機は共に水晶制御方式の1CH通信機材である。 写真Cは陸軍94式3号甲無線機である。本機は1936年(昭和11年)に実施された陸軍の第三次制式制定作業に於いて兵器化された、騎兵部隊用の近距離用通信機材である。この時代に於ける騎兵部隊は、明治期のそれとは異なり、自動車編成の歩兵部隊であり、必要に応じ装甲車輌や軽戦車を使用して、強行に敵情を調査する偵察部隊である。94式3号甲無線機の公称通達距離は80km、送信周波数は400-5,700KHz、受信周波数は350-6,000KHzで、運用形態は電信(A1)専用である。