94式対空2号無線機には原型の「94式対空2号無線機」及び、改良型である「94式対空2号無線機二型」の2機種がある。しかし、今日事務局が知る受信機は、対空2号無線機二型を構成する「94式対空2号無線機二型・受信機(以降「対空2号二型受信機」と表記)」の一機種のみで、原型受信機である「94式対空2号無線機・受信機」については確認したことがない。このため、所蔵資料を基に、以下で94式対空2号無線機の各型を構成した受信機について考えてみた。対空2号無線機関連資料(追加資料-008参照) 陸軍「航空通信学校假教程(昭和13年印刷)」(一般生徒及び学生用)の付図には、対空2号無線機の原型を構成したと考えられる受信機の資料が収められている。本図には94式対空2号無線機を構成する各機器の概略図が掲載され、受信機として27号A型、27号C型、2型と表記された3機種が描かれている。この内、27号A型・C型受信機については以前当掲示板「陸軍27号型受信機の系譜」(No.5954)で概観したが、本機は陸軍の野戦用上級機材を構成した27号型汎用受信機で、また、2型受信機は外観から対空2号二型受信機である。27号型受信機(追加資料-009参照) 本機は高周波増幅1段、中間周波増幅1段、低周波増幅2段構成のスーパーへテロダイン方式で、構成真空管は野戦仕様のため線條電圧1.1Vの電池管である。27号A型と27号C型受信機の外観は大分異なるが、A型の回路構成が27号受信機の普及型であるD型と相似しているため、27号C型はA型を再設計した受信機と考えられる。また、27号B型については、師団通信隊に関連した取扱説明書の中に「27号A・ B型受信機」との表記があり、両機に大きな相違は無かったものと考えられる。 なお、27号A型は後の改良機B・C・D・E各型の原型であり、このため、開発当初の型式表記は、「27号型受信機」であったと考えられる。94式対空2号無線機(原型)構成受信機 対空2号無線機は野戦航空部隊用の、対空通信機材として開発された。このため、当初受信機は野戦用上級機材を構成した27号型受信機を装備していたと考えられ、陸軍航空学校の資料はそれを示している。しかし、航空部隊の急速な発達とともに、対空2号無線機は固定形態での運用が中心となり、必要に応じ、6Vの蓄電池で稼働する「半固定式受信機(対空2号二型受信機)」が開発され、電源に乾電池を使用する27号型受信機は、使用されなくなったと考えられる。その後に行われた対空2号無線機の改修(2型)に際しては、27号型受信機に代わり「半固定式受信機」が採用され、94式対空2号無線機二型・受信機として制式化されている。 上記により、94式対空2号無線機の原型を構成した受信機は、対空2号二型受信機とは種類が異なる、27号型受信機であったと考えられる。また、その類型は原型(A型)・B型・C型であり、該当受信機には「94式対空2号無線機・27号C型受信機」等の銘板が取付けられていたと推測される。27号型受信機諸元受信周波数: 140-15,000kHz(7バンド)構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅(UF-134)、周波数変換(UZ-135)、中間周波増幅(UF-134)、再生検波(UF-111A)、低周波増幅1段(UF-109A)、低周波増幅2段(UY-133A)中間周波数(自動切替式): 100KHz/400KHz電源: 乾電池135V、67.5V、1.5V、-3V、-4.5V94式対空2号二型受信機概要(追加写真010参照) 対空通信が固定化されると、乾電池を電源とする27号型受信機の使用は不都合であり、蓄電池で動作する対空2号受信機2型が主受信機となったことは当然である。 対空2号二型受信機は高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅1段のスーパーへテロダイン方式で、線條電圧が6Vの傍熱管により構成されている。運用周波数は140-15,000KHzで、これをプラグイン式コイル8本で受信する。中間周波数は140-1,500KHzの長波帯が60KHz、1,500-15,000KHzの短波帯が400KHzである。主同調器は94式機材に共通の、180度展開100度目盛方式で、ダイアル機構はフリクション式である。目盛は付属の副尺と併せ読取り、周波数は添付の目盛・周波数置換表により知ることが出来る。回路構成 本受信機のフロントエンドは5極管UZ-78による高周波増幅回路、7極管Ut-6L7Gによる周波数混合回路、3極管UY-37による局部発振回路で構成されている。各段の同調回路は3連式可変蓄電器により構成され、高周波増幅段、第1検波段にはトラッキング用として、手動補正用の小容量可変蓄電器が付加されている。高周波増幅段の入力回路には空中線減衰器が装置され、受信入力の調整が可能である。局部発振回路はUY-37による陽極接地ハートレー発振方式で、出力を周波数混合管Ut-6L7Gの第3格子に注入している。 中間周波増幅回路はUZ-78及び双2極・5極管Ut-6B7の5極部で構成される2段増幅方式で、利得調整はUZ-78のカソード抵抗器を可変して行う。中間周波数は長波帯が60KHz、短波帯が400KHzで、中間周波数の変更はプラグイン式IFTユニットを受信機上部から差替えて行うが、本ユニットには各段のIFT三本及びBFO用コイルが装置されている。 電信復調用のBFO回路はUY-37によるグリッド同調型発振回路で、出力は中間周波増幅1段と2段の中間に注入している。 検波及び低周波増幅回路は、Ut-6B7の双2極部及び5極管UZ-41により構成されている。本受信機の利得(音量)調整は中間周波増幅1段目を構成するUZ-78のカソード抵抗器を可変して行うが、電信・電話切替器にも、各モードで低周波増幅管の第2格子電圧を可変し、音量の大・小を選択する機能が付加されている。 本機の電源は6Vの蓄電池で稼働する回転式直流変圧器で、出力は200V、変圧器は受信機内部に装置されている。 なお、本受信機はAGC機能を備えていない。対空2号二型受信機諸元受信周波数: 140-15,000kHz(8バンド)構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅(UZ-78)、周波数混合(Ut-6L7G)、局部発振(UY-37)、第1中間周波増幅(UZ-78)、第2中間周波増幅(Ut-6B7五極部)、BFO(UY-37)、検波(Ut-6B7二極部)、低周波増幅(UZ-41)中間周波数: 60/400KHz(IFT差替式)電源: 6V蓄電池・回転式直流変圧器(受信機内蔵)写真補足 掲示は対空2号二型受信機である。受信機の右に置かれたのが遠隔操作機の操縦器で、電鍵が確認出来る。奥は発動発電機である。本写真は1945年9月、Momi, Dutch New Guineaに於いて、オーストラリア軍による陸軍航空部隊の査察に際し撮影された。 なお、下記URLに本文に関連した追加写真及び資料を掲示した。http://kenyamamoto.com/yokohamaradiomuseum/2011apr01.html写真出典: Australian War Memorial