94式対空2号無線機(第3次制式制定機材)は、陸軍航空部隊の中距離用対空通信機材である。しかし、本機は遠距離用機材である94式対空1号無線機が不整備となったため、航空部隊の主力対空通信装置として、大戦終了まで広義に使用された。 対空2号無線機は、送信機、変調機、発動発電機、受信機、空中線材料、遠隔操作機等により構成されている。本機材は野戦仕様であるが、通常は飛行場の通信所に設置され、固定形態で運用された。本無線装置は高出力のため、基本運用は送信所と受信所を分け、この間を遠隔操作機で結ぶ遠操方式である。なお、対空2号無線機は航空部隊用であるが、変調機を除く構成主装置は、軍通信隊の遠距離用通信機材としても使用された。装置概要・送信機(追加資料-004参照) 本送信機は発振管UF-210B(三極管)、緩衝増幅管UX-860(四極管)、電力増幅管UX-860二本(並列使用)で構成されている。発振はハートレー回路の変形で、水晶片を装備して発振を行うが、取外すと自励式発振器として動作する。電力増幅段は並列同調タンク回路方式で、周波数帯の変更は可変式の同調コイルにより行う。タンク回路の出力側には空中線同調用として、可変式の延長線輪及び可変式蓄電器が装備され、調整により1/4、3/4波長で固定式空中線に同調させる。 電鍵回路は電力増幅管の第一格子電圧制御方式で、遠隔運用を行うため、回路は継電器により動作する。本機の陽極電圧は2,200Vで、送信出力はA1(電信)で約200Wである。変調機(追加写真-005・6参照) 対空2号無線機は電話通信機能を備えているが、その変調方式は高出力送信機には珍しく、陽極変調の一種であるハイシング変調方式を採用しており、対空電話通信への配慮が覗える。本機は遠隔運用を可能にするためボーダース回路(音声制御送信方式)を備えており、電話運用時に於ける変調管及び送信機の起動制御は音声入力信号により行う。 変調機は3極管UF-210Bによる音声増幅回路及び、3極管UV-849によるハイシング変調回路により構成され、使用する送話器はカーボン式である。また、遠隔運用の場合は、入力音声信号をUF-12A二本で2段増幅の後、UF-210Bに出力する。 ボーダース回路は3極管UF-12A二本及び高感度有極継電器により構成され、制御用音声信号は音声増幅管UF-210Bの出力側より取出している。音声信号により有極継電器が動作すると、変調管及び送信機の電力増幅管に高圧が加圧され、変調波が出力される。変調機には自機及び送信機に必要なバイアス電圧を発生させるため、12Vで動作する回転式直流発電機(出力-300V)が装置されている。送信機電源装置(追加写真-007参照) 本電源装置は発動発電機、配電盤及び、交流電源供給地域で使用する交流式変電装置により構成されている。発動発電装置は単気筒5馬力の2サイクルガソリン機関及び直流発電機により構成され、発動機の回転数は2,000/rpm、発電機は2,600/rpmで、出力は高圧2,200V、低圧12Vである。配電盤は電源装置の監視・保護装置で構成され、発電装置を制御する。 交流式電源装置は200-220Vで駆動する三相3馬力電動機及び直流発電機で構成され、出力は高圧2,200V、低圧12Vである。94式対空2号無線機諸元用途: 対空通信用通信距離: (A1)600km、(A3)300km周波数: 送信950-7,500KHz、受信140-15,000KHz(8バンド)電波型式: A1(電信)、A3(電話)送信機: A1出力約200W、水晶又は主発振UF-210B、緩衝増幅UX-860、電力増幅UX-860 x2並列使用変調機: 音声増幅UF-210B、ハイシング変調UV-849、音声送信制御UF-12A x2、遠操用音声増幅UF-12A x2送信電源: 発動発電機、交流式発電装置送信空中線: 逆L型、柱高12m、水平長25m、地線: 25m裸線6条運搬: 自動貨車1輌開設撤収: 兵6名で20-30分写真補足 掲示は対空2号無線機の送信装置で、左が送信機、右が配電盤である。本写真は1945年9月、Momi, Dutch New Guineaに於いて、オーストラリア軍による陸軍航空部隊の査察に際し撮影された。 なお、下記URLに本文に関連した追加写真及び資料を掲示した。http://kenyamamoto.com/yokohamaradiomuseum/2011apr01.html写真出典: Australian War Memorial