今般久しぶりに実用目的で、国産の4極受信管222をヤフオク!で入手した。当館は帝国海軍が1931年(昭和6年)に導入した「91式短受信機」(短波受信機)を所蔵しており、本機の高周波増幅部に4極管UX-222が二本使用されている。このため、予備球として是非必要であったが、222は人気の球で、これまで入手する事が出来なかった。 落札した222はミリタリーのジャンルに出品され、開始価格は3500円で、即決価格が4500円であった。軍装品での出品のため、フィラメントの導通を含め詳細は不明であったが、状態は良さそうで、錨マークも明瞭に残っており、食指が動いた。また、管表記が国産管でありながらUX-222ではなく、222である事にも惹かれた。何人かの応札があり、このため、面倒なので即落札価格で入手した。幸いな事に、到着した球のフィラメントは導通しており、また、状態も良く、動作品であろうと推測された。 入手した222は「エレバム」製であるが、この会社は東京大森の個人企業「宮田製作所」で、当初はネオン等の製造を手がけていた。しかし、1925年(大正14年)7月に始まったラジオの本放送が順調に発展し、真空管式ラジオが普及するにつれ、利益の大きな受信用真空管の製造に進出し、エレバムの商標により真空管の製造販売を開始した。エレバムはその後、3極管 UX201Aの製造により有名になったが、この会社は真空管時代の終焉を乗り越え、現在も株式会社エレバムとして企業活動を続けている。4極受信管222 本管はRCAが1927年(昭和2年)に発表した直熱の第二格子型4極管で,日本では1929年(昭和4年)に東京電気サイモトロンがUX-222として国産化した。当時は三極管の時代で、当然高周波増幅回路にも使用されたが、三極管は格子、陽極間のC容量(Cgp)が大きく、中和等特別な手立てなしに十分な増幅を行う事が困難であった。一方、4極管は第二格子によりCgpが非常に小さく押さえられ、また、増幅度も大きい事から、本管の開発により、漸く安定した高利得高周波増幅回路の設計が可能となった。4極受信管と帝国陸海軍無線機材 受信管の発達はめざましく、4極管の導入後間もなくして5極管が開発され、4極受信管の時代は短期間で終わった。このため、帝国陸海軍で4極管を使用した機材も極わずかで、当館の知る限り、陸軍の第二次制式機材である「87式飛行機用1号無線電信機」を構成した受信機、海軍の艦艇用「91式短受信機」(短波用)及び「91式受信機」(長波用)の3機種のみである。 「87式飛行機用1号無線電信機」は1927年(昭和2年)に制式化された陸軍航空部隊の機上無線機である。本機は英国マルコニー社製の中距離用長波無線機で、陸軍は第二次制式制定作業に際し、特段の改修なしに兵器化した。構成受信機の高周波増幅部には4極管232(UX-232)が使用されている。87式飛行機用1号無線電信機諸元用途: 中型飛行機対地用電波型式: A1(電信)、A2(変調電信)、A3(電話)通信距離200km(A1)、 100Km(A2・A3)運用波長: 送信150-300m、受信150-300m送信機: 自励発振直接輻射(MT-3F)、ハイシング変調(MT-3F)、送話器音声増幅(MT-5)送信出力: 約80w(A1)送信機電源: 風車式発電機、蓄電池(6V)受信機: 高周波増幅2段(4極管UX-232 x2)、再生・オートダイン検波(UX-230)、低周波増幅2段(UX-230 x2)受信機電源: 蓄電池(6V送受共用)、乾電池(135v)空中線装置: 空中線は40m垂下式、地線は機体接地 「91式短受信機」及び「91式受信機」は1931年(昭和6年)に海軍が開発した高周波増幅2段、オートダイン検波、低周波増幅二段構成の艦艇用受信機である。両受信機の高周波増幅段には従来の3極管に替え、この時期実用の域に達した国産4極管が使用され、「91式短受信機」はUX-222を、「91式受信機1型」はUY-224を装備した。91式短受信機諸元(短波受信機)用途: 艦艇用周波数: 3,000-20,000kHz(同調コイル差替式)受信機構成: ストレート方式、高周波増幅2段(UX-222 x2)、オートダイン検波(UX-201A)、低周波増幅2段(UX-201A x2)電源: 低圧6V(蓄電池)、高圧100V(艦内直流電源)空中線装置: 艦艇装備固定式 帝国海軍は4極管の実用により、漸くニュートロダインの頸木より開放された。しかし、早くも翌年に導入された「92式特受信機」は高周波増幅管を含め、周波数変換管を除く全てが傍熱型5極管により構成されており、海軍に於いても4極受信管の使用は短期間で終了した。92式特受信機改4型諸元用途: 艦艇用長波受信周波数: 20-1,500kHz(コイル差替式5バンド)短波受信周波数: 1,300-20,000KHz(コイル差替式5バンド)長波帯受信構成: ストレート方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、オートダイン検波(UZ-77)、低周波増幅1段(UY-238A)短波帯受信構成: 長波部に周波数変換部付加のスーパーヘテロダイン方式、高周波増幅2段(UZ-78 x2)、周波数変換(Ut-6A7)、中間周波増幅2段、オートダイン検波、低周波増幅1段電源: 直流100/220V、直流/交流6V掲示写真補足 組写真@の左が今般入手した国産4極管222で、右は三極管UX-201Aである。 資料Aは87式飛行機用1号無線電信機の装置構成図で、上段が受信機、下段が送信機である。本受信機の高周波増幅部には4極管232(UX-232)が使用されている。 写真Bは91式短受信機で、左が構成線輪、右が受信機本体である。本受信機のシールドは厳密で二重構造となっている。エボナイト製前面パネルの内側も錫メッキが施された黄銅合金板によりシールドされている。本機の高周波増幅管はUX-222で、更にシールドケースが被せられている。 写真Cは91式短受信機(短波用)及び91式受信機(長波用)に続き導入された短波、長波兼用の92式特受信機である。本機は周波数混合管を除き、傍熱型の5極管により構成されている。