先般電子部品の基板や電気絶縁材料を製造する利昌工業(株)の広報担当より、当館(横浜旧軍無線通信資料館)がHPに掲載している海軍「TM式軽便無線電信機」の写真使用許可に関わる連絡を受けた。要請は創業100周年に当たり、広報誌に掲載するベークライト板の記事に関連し使用したいとの事で、このため、該当機材の写真を新たに撮り直し、提供した。 広報担当者より頂いた資料によると、利昌工業(株)は 1935年(昭和10年)より「ベークライト板」を扱う電気絶縁材料メーカーで、昨年10月に創業100周年を迎え、先の大戦中は海軍省の指定工場であった。当初はベークライト板をスイスより輸入し海軍に納めていたが、国際情勢の緊張により輸入が困難になると、海軍の強い要請により、自社製に移行し、特命発注を受けた。 このため、海軍の通信機器に使用されたベークライト板は高い確率で、利昌工業が輸入、あるいは自社生産した製品の可能性があり、創業100周年を迎え、広報誌に掲載する記事に、当館が所蔵し、前面パネルにベークライト板を使用した海軍の「TM式軽便無線電信機」の写真を使用したいとの事であった。 本件に関連し、昨日利昌工業より該当の創業100周年号が大量に送られてきた。提供写真は「フェノール樹脂積層板」(商標ベークライト)と題した歴史記事の中で使用されていたが、写真の扱いが誠に大きく恐縮した。何れにせよ、当館の所蔵物が、歴史的メーカーの役に立ち、誠に幸いであった。海軍TM式軽便無線電信機 本機は帝国海軍陸戦隊用の携行式簡易無線電信機である。TM式軽便には中波用の「TM式軽便中無線電信機」及び、短波用機材である「TM式軽便無線電信機」の二機種がある。 TM式軽便は兵2名により運搬が可能なトランク型の簡易無線電信機で、トランク二個に電信機、電源、空中線材料他必要装備一式が収容されている。「TM式軽便中無線電信機」の運用周波数は2,500-5,000KHz、「TM式軽便無線電信機」は4,500-10,000KHzで、中波用機材が空中線延長線輪(タップ切替式)を装置している以外は、両機の回路構成に大きな相違はなく、装備真空管、備品等も共通である。 本電信機原型の導入は1929年(昭和4年)頃と考えられるが、以後数度の改修が行われ、大戦終了まで陸上部隊、各種艦艇(停泊時)、見張所他、海軍の各部所で広義に使用された。「TM式軽便中無線電信機」(中波用)諸元用途: 近距離通信用通信距離: 5km周波数2,500-5,000KHz電波形式: A1(電信)送信出力: 2W構成真空管: 直熱管UX-112A x2(又は傍熱管UY-76 x2)送信構成: 自励発振・直接輻射、UX-112A x2並列使用受信構成: オートダイン方式、検波UX-112A、低周波増幅UX-112A電源: 蓄電池6V及び乾電池135V(又は交流電源)空中線: ロングワイヤー式(内蔵式)「TM式軽便無線電信機」(短波用)諸元用途: 近距離通信用通信距離: 5km周波数5,000-10,000KHz電波形式: A1(電信)送信出力: 2W構成真空管: 直熱管UX-112A x2(又は傍熱管UY-76 x2)送信構成: 自励発振・直接輻射、UX-112A x2並列使用受信構成: オートダイン方式、検波UX-112A、低周波増幅UX-112A電源: 蓄電池6V及び乾電池135V(又は交流電源)空中線: ロングワイヤー式(内蔵式)