先般、帝国陸海軍、ドイツ軍他に関わる大量の無線機材を入手したが、この中に1950年代に米国で製造された特殊用途の無線装置RS-6と、受信機MCR-1が含まれていた。 これら特殊無線機については英国のトランク型機材であるB2型無線機が特に有名で、大戦中、主に欧州各地で情報部員やレジスタンス他が使用した。今日、欧米にはこれら特殊無線機の熱烈な収集家が多数おり、機材は驚くような高値で取引されている。 一方、我々日本の好事家は歴史的背景を含め、これら特殊無線機材については殆ど馴染みがなく、事務局員も特段の注意は払う事はなかった。しかし、今般の入手を機にRS-6を検分したところ、本機は実に精緻で見所が満載であり、誠に驚く事になった。このため、参考資料として、以下に本機の各部写真と併せ、若干の概観を掲示した。RS-6の導入 本機は米国製で、1951年頃、第二次世界大戦期の特殊無線機材に替え、軽量小型で低コストの後継機として、主にCIA(米国中央情報局)向けに導入された。この時期、世界各地では米ソが対峙し、代理紛争も頻発し、特殊用途の無線機材に対する需要は引き続き大きいと考えられていた。しかし、間もなくして技術革新により通信手段が多様化し、また、半導体式の小型で軽量、廉価な多目的の民生無線機が数多く造られる様になり、RS-6を含む専用の特殊無線装置はその役割を終える事になった。RS-6諸元用途: 情報機関他特殊用途送信周波数: 3-7MHz、7-16.5MHz電波形式: 電信( A1)送信出力: 3-5W送信構成: 水晶発振(6AG5)、電力増幅(2E-26)受信周波数: 3-6.5MHz、6.5-15MHz受信構成: スーパーヘテロダイン方式(水晶制御単一周波数受信機能付)、高周波増幅1段(5899)、局部発振(5899)、周波数混合(5899)、中間周波増幅2段(5899 x2)、格子検波(5718)、BFO(5718)・低周波増幅1段兼較正用水晶発振(5718)中間周波数: 455KHz電源装置: 交流式、直流式(入力6V)、送受信機共用空中線装置: 送受信機共用、1/4波長単線逆L展開型装置総重量: 6.5KgRS-6装置概要 本無線装置は送信機、受信機、共通電源装置及び空中線装置等により構成され、運用は電鍵操作によるブレークイン方式である。☆送信機 本機は水晶発振、電力増幅方式で、運用周波数は3-7MHz、7-16.5MHzの2バンドであり、電波形式はA1のみである。発振回路は五極管6AG5で構成される変形ピアスで、陽極側に同調回路を具え、発振確認用のネオン管が装置されている。 電力増幅部は五極管2E26により構成され、陽極同調回路は蓄電器により高圧を切離した並列タンク回路方式で、陽極電圧は400V、送信出力は3-5Wである。 空中線結合回路はタンクコイルと共用のインダクタンス切替式出力コイル及び、空中線回路に直列に装置された給電確認用の豆ランプにより構成されている。本回路は接地型空中線同調回路を構成し、電流饋電方式により、接続する1/4波長の空中線との同調を行う。 電鍵回路は継電器による高圧の接・断方式で、併せ、空中線の切替及びネオン管による打電モニター用の低周波発振回路を制御する。低周波出力は必要に応じ、受話器に接続される。送信機には小型の電鍵が組み込まれているが、併せ高速用の外部電鍵を接続する事が出来る。 送信機の容積は13x17.5x5cmで、重量は1.3kgである。☆受信機 本機は高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段のスーパーヘテロダイン方式で、傍熱式サブミニチュア管8本により構成されている。運用周波数は3-6.5MHz、6.5-15MHzの2バンドで、BFO回路及び同調ダイアル較正用の水晶発振回路を具えている。 フロントエンドは五極管5899による高周波増幅1段、5899による周波数混合回路及び5899による局部発振回路により構成されている。 局部発振回路は水晶片による固定周波数受信機能を具え、自励発振時は陽極同調型発振回路として動作するが、水晶片を装置すると第二格子を陽極とした変形のピアスGP発振回路として機能し、陽極同調回路より基本波、高調波が出力される。使用する水晶片の発振周波数は受信周波数+455KHzである。 各段の同調回路は3連式の可変式蓄電器により構成され、同調目盛盤は粗同調ダイアルを兼ね、併せ減速ギァによる精密同調機能が付加されている。 中間周波増幅回路は5899による2段増幅方式で、中間周波数は455KHzである。第二検波は三極管5718による格子検波方式である。 BFO回路は5718により構成されるハートレー発振方式で、本回路はダイオードと共に手動利得調整用のバイアス電圧発生回路を併せ構成し、出力電圧を高周波増幅管及び中間周波増幅管の第一格子に加圧している。 低周波増幅回路は5718による一段増幅方式で、本回路は同調ダイアルの較正用500KHz水晶発振回路を兼用している。低周波出力回路は変成器により構成され、専用受話器は片耳式のマグネチックイヤホーンである。 受信機の容積は17x13x5cmで、重量は1.3kgである。☆電源装置 本装置は一次入力電源が交流、直流の選択式で、切替えは接続するコネクターにより行われる。交流運用の場合、入力は70-270Vの五段切替式で、線條電圧は交流6.3Vが供給される。直流運用はバイブレター構成で、入力は直流6V、この場合線條電圧は一次直流電源により供給される。 電源装置は高圧発生部及びレギュレター部に2分割された構造で、高圧発生部には整流管6X4が装置され、出力は直流400Vである。レギュレター部には平滑回路及び、定電圧放電管5644二本で構成される受信機用の定電圧発生回路が装置され、送信機に400Vを、受信機に90Vを供給する。 高圧発生部の容積は10.2x25x5.2cmで、重量は2.5kg、レギュレター部の容積は10.2x25x5cmで、重量は1.5kgである。 なお、レギュレター部の半分はアクセサリー類の収容部である。☆空中線装置 取扱説明書に記載される本機の空中線装置は、1/4波長の逆L型で、送受信機共用である。RS-6の送信機は展開空中線の延長、短縮を行う空中線同調機能を具えていない。このため、使用空中線長は1/4波長で、結合回路による同調範囲はさほど広くないと考えられる。掲示写真補足 組写真@はRS-6の主要構成装置で、奥左が電源高圧発生部、中央が電源レギュレター部、右が送信機で、手前が受信機である。 写真Aは送信機の内部、Bは受信機の内部である。 写真Cは電源部で、左が高圧発生部、右がレギュレター部である。