先般Facebook「WWII German Signals and Communications Equipment」のメンバーとなり、ドイツ軍無線機材に関わる資料の収集や、所蔵機材のUPなどを行っている。 このFBに先日、ドイツ軍のテレフンケン社製ハンドマイクの写真が投稿され、誠に驚くことになった。当該マイクは帝国海軍の汎用マイク(海軍型マイク)と同一構造で、この投稿により小生は本品がテレフンケン社製品の複製であることを初めて知った。 海軍型マイクはカーボン式で、海軍艦艇用無線機材や大型航空機に搭載された96式空4号無線電信機等に使用されたが、グリップ部が木製のため、小生は疑わずして本品は海軍のオリジナルと考えていた。 模倣品関連で話は若干それるが、帝国陸海軍はテレフンケン社製の汎用受話器Dfh.h型の複製である「テレフンケン型」受話器を使用していた。しかし、先般大量に入手したドイツ軍無線機材の中に、Dfh.h型とは構造が若干異なる高級型受話器が複数含まれていた。 この受話器はDfh.b型で、構造はDfh.f型と比べ非常に重厚で、復調音域もDfh.h型と比べ広いように感じられた。写真でよく見る、ドイツ軍戦車の車長が装備している大型受話器は、このDfh.b型に大きな耳当てを付加した構造と考えられる。 ドイツ軍、帝国陸海軍を問わず、当時の汎用受話器は用途からして電信受聴用で、その最良復調周波数は900-1,000Hzと考えられる。このため、音声通話には必ずしも適してはおらず、Dfh.b型はこれを補足する広帯域型受話器で、主に音声通話、放送受信用等に使用されたと推察される。 先の大戦に於いて広帯域型受話器の開発は時代の要請で、帝国陸海軍は水中聴音機等、水中音響兵器に使用するこの種の受話器を必要としていた。海軍電気技術史第6部「水中音響兵器」・13節「受話器の研究」には、これら受話器に関し以下の記述(要約)がある。「撃墜したB-29の無線機用可動鉄片型受話器(ANB-H-1A?)を入手し調査をした結果、極めて優秀な物であったので、これを参考に電気試験所で設計し三菱電機大船工場に試作を依頼した。理想的には一層良好な永久磁石と導磁率の大きな振動鉄板材料を必要としたので、この研究を仙台の航空電気研究所に依頼した。しかし、何れも結果を得ずして終戦となった。」 なお、参考資料として帝国陸軍の上級機材用電鍵の写真を併せ掲示した。この電鍵は構造から、明らかにドイツ陸軍型電鍵の模倣品である。しかし、模倣した電鍵は、ドイツのメーカーが他国製品を参考に開発したとの説もあり、話は若干複雑である。掲示資料補足写真@、掲示はドイツ陸軍のテレフンケン社製ハンドマイクである。写真Aは帝国海軍のハンドマイクで、構造はテレフンケン社製マイクと同一である。写真Bはドイツ軍の受話器二種で、左が広帯域型である。帝国陸海軍が導入したのは右のh型で、国内では「テレホンケン型」と呼称された。写真C、掲示左はドイツ陸軍の野戦用電鍵で、右は帝国陸軍の汎用型電鍵である。