先般大量に入手した旧軍機材の中に、海軍の「全波受信機」(製造昭和19年4月)が含まれていた。入手時本受信機は前所有者により修復途上であったが、今般当館(横浜旧軍無線通信資料館)の技術調査員である安齊穗積君により完全に修復され、動作状態に復帰した。 本受信機は高周波増幅1段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段のスーパーヘテロダイン方式であるが、驚くことに、低周波増幅二段部(UZ-41P.P.構成)を除く各部はマツダの五極管RC-4により構成されている。事務局員が知る限り、RC-4を使用した機材は本受信機及びその改修型である「試製全波受信機」の二種で、それ以外で確確認されたことはない。海軍「全波受信機」諸元受信周波数: 500-22,000kHz(6バンド)電波型式: 電話(A3)、変調電信(A2)構成: スーパーヘテロダイン方式、高周波増幅1段、第1検波、中間周波増幅2段、第2検波(陽極検波)、低周波増幅1段、低周波増幅2段(UZ-41P.P.構成)、AGC機能無し、電信(A1)復調機能無し、構成管RC-4八本、UZ-41二本中間周波数: 450KHz電源: 線條電圧100V、高圧100V/200V選択式製造: 高梨製作所構成管RC-4 本管の外観構造は一見、日本無線が独逸テレフンケン社の万能五極管RV12P2000を参考に開発したRE-3に類似している。しかし、線條電圧はRE-3の12Vに対し6.3Vで、全長(除引出ツマミ)も62mmと大分長い。ステムはボタンステム構造で、サイドコンタクトを別にすれば、真空管としてはMT管である。 RC-4の規格についてはハッキリしないが、CQ誌創刊号に記載された「戦時中現れた国産真空管特性一覧表」にはgm3000μ℧と記されている。同時期に開発されたソラのgmが2000μ℧であることから、当時としてはかなりの高gm管である。試しに安齊君が三極管構成のgm測定回路を作成し実測したところ、値は大凡3000μ℧を示し、前述のgm規格と一致した。この数値は、6BA6よりも若干低い値である。海軍「全波受信機」 本受信機は10年程前Net auctionに出品されたが、事務局員は二番札で入手出来なかった経緯がある。落札者は高い修復技術を持ち、受信機をバラバラにし、構成部品からの修復を進めたが、高齢により作業が中断し、他機材と合わせ当館が譲り受ける事になった。 ところで、「全波受信機」は誠に不思議な受信機で、高周波増幅1段・中間周波増幅2段・低周波増幅2段の上級構成にも拘わらず、電信復調用のBFO機能を具えていない。また、低周波増幅二段部は出力管UZ-41のP.P.構成で、出力端子には「拡声器」と表記されている。つまり、本機は500-22,000kHzの放送受信用で、用途は多人数による共同聴取と言うことになる。海軍「試製全波受信機」 「全波受信機」のAuction後暫くして、驚いた事に、懇意の道具屋が本受信機と構成が殆ど同一の、「試製全波受信機」なる機材を入手してくれた。この受信機はジャンクで、構成各部はRC-4と共に手つかずで残っていたが、前面パネルとツマミ等の付属品及び、ギヤ構成の同調機構が失われていた。しかし、何故か同調目盛板は紛失しておらず、板上には「試製全波受信機」(19年11月)との表記があった。 本受信機の構成は「全波受信機」に相似するも、BFO機能が付加され、このため構成管は11本と成っている。「試製全波受信機」の製造は「全波受信機」と比べ新しく、各部の構造も簡素化が進んでいる。このため、「試製全波受信機」は汎用性を考慮し、「全波受信機」にBFO 機能を付加し、通信用受信機への転換を図ったものと考えられる。 なお、「試製全波受信機」については安齊君により修復が進められており、既に前面パネルや銘板等は複製され、同調機構についてもプーリー式の暫定装置が組み込まれた状態となっている。掲示写真補足 写真@、掲示は修復が完了した海軍「全波受信機」である。 写真A、掲示は「全波受信機」を構成するマツダのRC-4と関連真空管である。 写真B、掲示左は修復済みの「全波受信機」、右は修復を待つ「試製全波受信機」である。 写真C、掲示は修復途上にある「試製全波受信機」である。